ラジオ局を訪ねてきた少年は、行方不明者のリストを握り締めていた。ペルー系アメリカ人作家による初長篇。
行方不明者を探すラジオ番組「ロスト・シティ・レディオ」。その女性パーソナリティーのもとを、一人の少年が訪ねてくる。彼が手にしていた行方不明者リストには、彼女の夫の名前もあった。次第に明らかになる夫の過去、そして暴力に支配された国の姿。巧みなサスペンスと鮮烈な語り。注目の新鋭による、圧倒的デビュー長篇。
(新潮社HPより)
惹き込まれる様に読みました。
とある国に起きた内戦を巡っての物語。
内戦なので、戦闘により命を落とす場面が多く出てくるのか?と思ったらさほどではない。
でも、単純に戦闘により命を落とす危険よりも更に根深い何か目に見えない恐怖が伝わってくる物語だった。
物語は人気ラジオ番組「ロスト・シティ・レディオ」のパ-ソナリティを勤めるノ-マの元にある日、現われる少年・ビクトルとの出会いから始まります。
ビクトルは貧しい人々が暮らすジャングルのなかの1797村というところから来た。
手には村の人たちから託された行方不明者のリストを持っていて、ラジオ番組でリストにある名前を読み上げて欲しいという。
ノ-マは少年・ビクトルをしばらく預かることに。
そして、物語は過去を織り交ぜていく。
ノ-マの夫・レイも行方不明者なのだが、二人が一緒に暮らしていた頃の話。
レイの少年時代の話。
レイが自身の仕事(民族植物学者)の関係でジャングルのなかの村を訪れていた頃の話。
そして、段々とわかってくるレイの失踪するまでの様子とその後のこと。
時系列が一定方向じゃないので、やや面食らったけど、分かりにくくはない。
始終、よくわからないなんともいえない閉塞感がつきまとう。
内戦が終わっても、いまなお人々のなかの戦いは終わらないのかな?
架空の国の物語とはいうけど、凄いリアリティを感じた!
★★★★★
けっして動かないよう考え抜かれた金属の部品の数々。でも力加減さえ間違えなければ、すべてが正しい位置に並んだ瞬間に、ドアは開く。そのとき、ついにその錠が開いたとき、どんな気分か想像できるかい?8歳の時に言葉を失ったマイク。だが彼には才能があった。絵を描くことと、どんな錠も明けることが出来る才能だ。やがて高校生になったマイクは、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり芸術的な腕前を持つ解錠師となるが・・・
MWA,CWAの両賞の他、バリ-賞最優秀長編賞、全米図書協会アレックス賞をも受賞した話題作
(早川書房HPより)
なかなか面白く、スラスラと読めた。
8歳の時に喋れなくなったのには、ある凄惨な事件を目撃してしまったから。
そして、偶然にもそんな事件に巻き込まれたため、ある才能があることがわかる。
その才能とは、鍵を開けることが出来るという才能。
物語は8歳のときの事件に巻き込まれながらも生還したマイクを「奇跡の少年」とマスコミで取り上げられたということが書かれ、その後、どういう経緯か金庫破りの罪で囚われ、自分のいままでを振り返る形で進む。
子どもの頃のことと金庫破りをしていた頃のことが交錯しながら話が進むので、ちょっと話が前後するけど、読みにくさはなかった。
少年が金庫破りを自ら進んでやっているかというとそうではない。
犯罪者が少年に接触さえしなければ。。。。
けれど、イヤならやらずに済んだような状況で、それを続けていたのは、鍵を開けることで自分の存在価値が高まるようだったからかな?
そう思うと、哀しい。
やがて、金庫破りの現場を家主・マ-シュに見つかり、バツとして命じられたことを黙々とこなす。
律儀な・・・半ば呆れながらも少年の本質を認めるマ-シュ。
そしてその娘・アメリアとの恋。
金庫破りをしてなかったら、アメリアにもめぐり合えなかったのだから、まあ、結果良ければ・・・ということだろうか?
金庫破りをするシ-ンが度々出てくるけれど、そんな風に実際、鍵を開けることが出来る人がいるとしたら脅威だな。
でもその描写はリアルで面白かった。
刑期を終えたマイクが、今度は絵の才能を活かして、アメリアと新たな人生を歩いてほしいなぁ~なんて願望を持ちながら本を閉じた。
映像化されたら、これ面白いかも。
★★★★
人と犬の絆、人間の原罪、
驚異のデビュー作
スティーヴン・キング絶賛、発売忽ち140万部突破の全米大ベストセラー小説。動物文学の新たなる金字塔。
ウィスコンシンの静かな農場で犬のブリーダー業を営むソーテル家の一大サーガ。思いがけない父の死とその真相、母と叔父の接近。居場所を失った息子エドガーは、3匹の犬とともに森に姿を消す──。人と犬との絆、人間の原罪、少年の成長を魔術的に、寓話的に描き、物語の醍醐味に正面から挑んだデビュー作。
(NHK出版HPより)
素晴らしい物語でした!!
700頁を超える長編作品ですが、全く飽きませんでした!
むしろ残りの頁がなくなってくるのが寂しくなったほど!
犬好きの人ならすごく楽しめると思うけど、犬より猫派のわたしでさえ、犬って素晴らしい生き物だな・・・と思った。
主人公は、表題通り、生まれつき言葉を発することが出来ない少年・エドガ-・ソ-テル。
祖父がこの土地を買い取り、犬の飼育や繁殖を行い、それによって生まれたソ-テル犬は誇り高い賢い犬として、世に知られることにまでなった。
エドガ-の父・ジョンがその後を引き継ぎ、母と結婚し、流産を2度繰り返した後、生まれたのがエドガ-であった。
エドガ-は、言葉は喋れないけれど2歳から手話をはじめ、犬とも手話で接し、エドガ-が生まれたときから居た犬のア-モンディンとはいつも一緒に行動し、まるでエドガ-の二番目の母親のよう。
信頼関係で繋がっていた。
平和だったソ-テル家だったのに、少しずつその様子が変わってくる。
そのキッカケになったのは、ジョンの弟・クロ-ドが農場に戻って来たこと。
ジョンとは意見が対立し、口論が耐えない。
そして、突然の父の死。
その死の瞬間、居合わせたエドガ-は、後に、自分が言葉を話せていたら、父親を助けられたのではないか?と自責の念にかられ苦しむ。
母親も父の死を哀しんでいるが、クロ-ドが家のなかに入り込むことを容易に受け入れ、クロ-ド自身をも受け入れているかんじがエドガ-を一層、苦しめる。
そして、父の幽霊と接する。
精神状態がアンバランスになっていくエドガ-。
そして起こしてしまう惨事。
その後、3匹の犬と一緒に家出して森のなかで生活する。
この場面は、哀しく過酷なんだけど、自然を相手に生きるエドガ-と犬たちの様子が生き生きしている。
最初は空腹に苦しむが、その問題も解消し、親切なヘンリ-という男性の元で暫く生活をする。
ヘンリ-とエドガ-たちのやり取りの場面はホッとするものだった。
しかし、再び、家に帰らなければとヘンリ-に別れを告げて家に帰る。
ハッピ-エンドでなかったラストの成り行きにはビックリだった!
いつまでも余韻が残る。
これは、またぜひ時間のあるときに時間をかけて再読したい。
★★★★★
逝ってしまったきみへの追想と祈り----。少年と教師、ひと夏の恋。
追悼式の日、合唱隊が歌い、彼は目を閉じる。夏休みの小さな港町で、少年は美しい教師に恋をした。海辺の出会い、ヨットレース、ビーチドレスと短い黒髪、そしてホテルの夜……織りなす記憶の重なりは、やがて沈黙に満たされる――妻を亡くした巨匠レンツが祈りを紡いだ物語、ドイツでベストセラーとなった清冽な恋愛小説。
(新潮社HPより)
物語は、学校の講堂での追悼式の場面で始まる。
その学校で英語を教えていた教師・シュテラ・べ-タ-ゼンの追悼式。
彼女は、生徒たちに人気があり同僚からも高く評価されていた。
そして、その追悼式のなか、一人の青年・クリスティアンは特別な想いでそこに居た。
先生と過ごした時間を思い出しながら・・・・
一言で言うと高校生と女教師の恋物語を描いたもので、そういう話は結構、過去にも読んだし、物語としてはありがちな設定です。
でも、物語のうしろにある背景が頭に浮かび、それがとても美しい。
海辺が近い場所が舞台で、そこで過ごす二人の姿はロマンチック。
状況として、よくわからない部分もあるのだけど・・・・
例えば・・・シュテラはクリスティアンになぜ、そしてどこに惹かれたのか?
事故の起きたときの状況もちょっとよく分からなかった。
それは、まあ置いておいて
80歳を過ぎてもこういう恋愛話を書けるレンツって、素敵だな。
ほかの物語も読んでみたくなった。
こういう雰囲気のある小説って好き。
海外の作品ぽくて・・・。
1616年、北極海。
たったひとりの越冬。
明けない夜。荒れ狂う吹雪。愛した女の幻影。
一冊の日誌-----。
底知れない悲しみを抱えた男の極北での越冬と魂の救済。
400年前の航海日誌から紡ぎだされた、壮大なデビュ-長編。
(本の帯文より)
この寒い時期に読むと、一段とこの本の世界の冷たく凍えるようなかんじがリアルに伝わって来ました。
物語の主人公は、トマス・ケイヴ。
北極海への捕鯨船に乗り組む。
そして、漁を終え、故郷イングランドに戻るというときに、乗り組み員同士の口論に口出ししたことが元で北極海に一人残ることになる。
そんな成り行きで一人置いていく方もひどいと思ったけれど・・・
ケイヴは、淡々としている。
そして、極寒の地での孤独な1年の暮らしが始まる。
物語の語り部は、寡黙でほかの乗り組み員たちと馴染もうとしなかったケイヴが唯一、打ち解けて話をした乗り組み員のなかでは年少のトマス・グ-ドラ-ド。
名前がおなじというところからもお互いに親近感を覚え近づく二人。
グ-ドラ-ド目線で書かれている部分が多いけど、やはりケイヴが一人で過ごしている場面は壮絶で哀しい。
ケイヴの人物像が段々と明かされ、船に乗り組む前に妻と子どもを一度に失っていたのだとわかる。
そして妻・ヨハンネの幻影が時々、目の前に現れる。
かつて妻と会話した場面が蘇る。
そして自分が彼女に寂しい思いをさせていたことに悔いるケイヴ。
現実に戻れば、厳しい自然のなか。孤独。
普通の精神状態を保つだけでも大変な日々を、なんとか耐える。
元々几帳面なケイヴは、いろいろなことを書き留める。
日誌を書くことで精神の平静を保つ。
なんとか1年を一人で生き、再び仲間が船で迎えに来たが、喜びを顔に出すことはなかったケイヴ。
それから年月が経ち、グ-ドラ-ドも成人し結婚し、ケイヴのことを再び探し再会したいと思いその再会は叶うのだけど、そこで彼が言う言葉
「・・・・あそこへは行くべきじゃなかった」
「神が人間を行かせるおつもりのなかったところへ、俺たちは行ってしまったんだ。俺たちは神を超えてしまったんだよ」
自然の脅威を肌で感じたケイヴの言葉が、とても威厳に満ちている。
何か人間離れしたかんじの人だな。
これがデビュ-作らしいけど、今後の作品も是非、読みたい作家さんだ!
記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;