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読んだ本の感想あれこれ。
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発行年月:2003年11月


小さなレコード店や製函工場で、時代の波に取り残されてなお、使い慣れた旧式の道具たちと血を通わすようにして生きる雪沼の人々。廃業の日、無人のボウリング場にひょっこり現れたカップルに、最後のゲームをプレゼントしようと思い立つ店主を描く佳品「スタンス・ドット」をはじめ、山あいの寂びた町の日々の移ろいのなかに、それぞれの人生の甘苦を映しだす川端賞・谷崎賞受賞の傑作連作小説。
受賞
第8回 木山捷平文学賞
受賞
第40回 谷崎潤一郎賞
受賞
第29回 川端康成文学賞

                  (新潮社HPより)


「雪沼」という地に暮らす人、かつて暮らしていた人たちの物語。
主人公が変わりながら短編の形だけど、どこか繋がっているようなかんじ。


やはり一番最初で川端賞受賞の「スタンス・ドット」が良かった。
今日で店じまいのボウリング場に、灯を落として閉店しようとするところに
来た男女。
「トイレを借りたい」という。快く、承諾したあと、
折角なので、1ゲームだけ無料でやっていきませんか?と。

偶然の出会いで、これでもう会うこともない人たちとの素敵な時間。
この男女はラッキーだったなぁ~。


他の作品もそれぞれ良かった。
ドラマチックなことは特に怒らないのだけど、文章が素敵だから
素敵な物語になっている。


<イラクサの庭>
10日前に亡くなった小留知(おるち)先生は、レストラン兼料理教室を
開いていた。
フランスの田舎で料理に使うイラクサはOrtieと呼ばれているということから
先生の名前と似た発音のイラクサをお店の名前に。
教え子たちが先生の昔話。
死ぬ間際の一言がうまく聞き取れなかったことを悔やむ一人に
皆がいろいろ推理。
先生は「コリザ」と言ったような・・・・・と。

それは氷砂糖ではなかったのか?という結論に。
ちょっと切ないけれど美しい思い出があったんですね・・・。


<河岸段丘>
この何日か、身体がわずかに右に傾いている気がする田辺。
土産物のマグカップを詰める段ボールを制作している。
機械の整備のため40年来の付き合いのある青島を呼ぶ。

結局原因は、機械の傾きのせい?
現実と幻想が交わって終わる不思議なはなし。


<送り火>
2周り以上年が離れている夫婦。
陽平と絹代。
2人は二階で書道教室を開いている。
一人息子は13年前に大雨のあとの川を見に行って流されてしまった。
陽平が50歳、絹代が27歳の時に生まれたこども。

2人が結婚するまでの経緯、子どもを亡くしてからの暮らしぶり。
静かな物語。


<レンガを積む>
音楽堂店主の蓮根。
スピーカーの台にレンガを注文して、それを設置する。

ただそれだけの話なのに、なぜか面白い。


<ピラニア>
中華料理屋を営む安田。
常連客の信用金庫勤務の相良。
店には熱帯魚の水槽が並ぶ。
特に珍しいものがいないがブラックピラニアは異質。
知人にどうしても貰ってほしいと言われて引き受けたもの。

不器用で欲のない安田のひょうひょうとした雰囲気がいい。



<緩斜面>
消火器販売と設置されたものの点検をしている会社に勤める香月。
自分がこの会社に勤めることになったのは友人・小木曽の勧めがあったから。

「ABC殺人事件」の文庫本を片手にしていたのを見て
消火器の会社を紹介した小木曽のセンスがいいね!
火災は
普通の火災・・・・A
油の火災・・・・B
電気系の火災・・・C
というそう。

小木曽が亡くなってもその息子・大助と昔二人で遊んだ緩斜面で凧揚げする
場面が素敵。



どれもしみじみいい。
文章が好きだな。



                       ★★★★★
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発行年月:2001年6月


背中に昇り龍を背負う印鑑職人の正吉さんと、偶然に知り合った時間給講師の私。大切な人に印鑑を届けるといったきり姿を消した正吉さんと、私が最後に言葉を交わした居酒屋には、土産のカステラの箱が置き忘れたままになっていた……。古書、童話、そして昭和の名馬たち。時のはざまに埋もれた愛すべき光景を回想しながら、路面電車の走る下町の生活を情感込めて描く長編小説。

                     (新潮社HPより)




一応、東京なんだろうけれど、すごく、ゆったりした感じの人々の暮らしぶりが
読んでいて心安らぐかんじ。

お土産にすぐはずだっただろう、カステラの包みを置いたまま、どこかに
出かけた印鑑職人の南雲政吉さん。

主人公の私は、偶然、その場所に住むことになった様子だけれど
引っ越した先で、こんな素敵な人間関係をつくれるのは、いいな。

大家さんの米倉さんとその娘の中学生の咲ちゃんとの関係もほのぼの。

咲ちゃんが苦手の英語をみてあげる主人公とのやりとりの場面がおかしくもあり
微笑ましくもあり、好きな場面。

Tom  Sawyer(トム ソーヤ)を辞書で調べて 
トム 木挽きと訳した咲ちゃん・・・^m^

そのあと、主人公の頭になかには トムコビキが暫く残って離れなくなる。



古書店主の筧さんの本にパラフィンシ紙をかける様子とかも想像したら
楽しい。
そーいえば最近、パラフィン紙のかかった本って見てないな。



なんともない人々の暮らしぶりが物語になっているんだけど、
すごく好き。


この辺りの土地に詳しかったら、もっと楽しめるだろうな。



主人公が語る作家・島村利正って、知らない作家さんだけど
凄く興味を覚えたので近いうちに読んでみたい!



                    ★★★★★



発行年月:2015年10月

「猫のつなをといて、自由にしてやること」――慶長七年、洛中にだされたおふれに、猫たちは大喜び。一方ねずみたちは猫たちに追われる身となり、物陰に隠れる日々に。猫を再びつなぐように訴える老鼠法師、それに反対する猫又和尚。それぞれの主張に僧師は如何に答えるか?通事をつとめた象の法師が伝える、ねずみと猫の諍いの顛末は――

人気作家と人気画家のコラボで、あの「おとぎ話」が新しい文学になった!
自由自在に描かれた新作小説と個性豊かなカラー挿画で贈る絵本シリーズ、2015年10月より刊行開始。

【シリーズ全6冊】
『付喪神』 町田康 × 絵・石黒亜矢子 
『象の草子』 堀江敏幸 × 絵・MARUU  
『木幡狐』 藤野可織 × 絵・水沢そら  
『うらしま』 日和聡子 × 絵・ヒグチユウコ
『鉢かづき』 青山七恵 × 絵・庄野ナホコ
『はまぐりの草紙』 橋本治 × 絵・樋上公実子

                  (講談社HPより)



シリーズ物のひとつだったんだ~。

これは猫が出てくるし、堀江氏の作品なので興味があって読んでみた。

お話も面白いけど、絵が素晴らしい!
絵だけ読んだあと、じっくり見て楽しんだ。


猫と鼠がそれぞれ自分たちの言い分を僧師に訴える。
その一部始終を見ている僧師に仕える象の法師。

繋がれていた猫を放せというおふれが出たことで猫は大喜び。
鼠は逆に窮地に追いやられることになる。


冒頭は、そもそもなんで猫が繋がれていたのか?という話。
象が原因だったとはね・・・笑


話のなかに出てくる果物・・・あんもらか=庵摩羅果=マンゴー
こんな時代にマンゴー?あったのか?


薄い本だけど、時間をかけてじっくり堪能。


                      ★★★★★


発行年月:2012年5月

築四十年を超えた雑居ビルに探偵とも便利屋ともつかない事務所を構える枕木。
依頼内容が「うまく言えない」と口ごもる客人と、その心を解すように
言葉を継いでいく枕木の会話に、雷雨とともに戻ってきた郷子さんも加わって、
時はゆるやかに流れる。
別れた妻と息子の消息が知れない男の胸によぎる思いとは?

                (講談社HPより)


3人の会話だけで進行していく。

探偵・枕木と事務所の訪問者・熊埜御堂氏と事務所のスタッフ・郷子さん。

熊埜御堂氏は、13年前に離婚した妻と息子の消息が知りたくて事務所を
訪ねた。
が、妻子に関する話から、どんどん話は逸れていく。

買い物から帰った郷子さんが加わってからは特に・・・

でもその話が面白い。
次々、変わる話のなかの人物のことが気になってくる。

外は暴風雨になり、雨宿りのかんじで熊埜御堂氏もお喋りに乗って・・・

途中お腹が空いて、郷子さんが作るツナとバターを混ぜたパスタや、
再びお腹が空いて、しまってあった牛肉の佃煮を具にしたおにぎりもなんだか
美味しそう。

枕木氏と熊の御堂氏には、過去にいくつかの接点があったことも
話を広げていくことになる。

暴風雨のなか、ホームレスの老人・伊丹のことが気になり、知り合いの
個人タクシー運転手の枝盛に連絡して走りながら探して欲しい旨を伝えたり、
どんどん気になることが増えていく・・・笑

伊丹は無事に枝盛に保護されてよかった。

肝心の熊埜御堂氏の妻子の消息は、わかりそうになりけれど
枕木と親しい昔からの友人のような関係が出来た様子は、なんだか微笑ましい。

枕木の話のなかに以前読んだ「河岸忘日抄」の停泊している船を借りて
住んでいた男が友人として出てきたのも嬉しかった。
その男も探偵の友人が居るって言ってた記憶。


たわいもない会話の続く物語だけれど、楽しかった!

表紙のシミのようなものは、枕木氏のネスカフェ三種混合(コーヒー+粉末ミルク
+角砂糖(スプーン印の)の物だろうか?


                      ★★★★★


発行年月:2001年2月



芥川賞受賞
いくつもの物語に出会う旅は、フランス人なら誰でも知っているという寓話に辿り着いた。

ながくつきあっている連中と共有しているのは、社会的な地位や利害関係とは縁のない、ちょうど宮沢賢治のホモイが取り逃がした貝の火みたいな、それじたい触れることのできない距離を要請するかすかな炎みたいなもので、国籍や年齢や性別には収まらないそうした理解の火はふいに現われ、持続するときは持続し、消えるときは消える。不幸にして消えたあとも、しばらくはそのぬくもりが残る。――本文より

                    (講談社Hpより)



堀江氏の文章に惹かれ、過去のものをあれこれ読んでいる。

これは、芥川賞受賞作<熊の敷石」>を含む3編。


芥川賞って「?」っていうのが結構、あるけれど、これはわかりやすい!
そしてやはり堀江氏の文章は素晴らしいと思う。
特に景色の描写、なにげない会話から浮かぶ、そこにある空気感みたいなもの
も伝わってくる。

<熊の敷石>は、フランスの寓話のなかの言葉らしい。
ラ・フォンテーヌの寓話<熊と園芸愛好家」というお話のなかで
森に暮らす孤独な熊と一人暮らしの老人がばったり出会い、最初はお互い
緊張するが老人が家に招き、意気投合し、一緒に暮らすことになる。
熊は、老人がお昼寝している間、わすらわしいハエを追い払うのが日課。
ある日、老人の鼻先に止まったハエを追い払うのに難儀し、おもわず敷石を
ハエめがけて投げるがそれは老人の頭を直撃することになり即死させてしまう。

このことから、いらぬお節介のことを「熊の敷石」というのだとか。

面白い!
おじいさん気の毒だし、熊のこのあと、どうしたんだろ?
その後の熊が精神状態が気になる。

で、主人公はユダヤ人の友人・ヤンにとって、自分は熊かもしれないと考える。
ちょっと考えさせられる内容。


<砂売りが通る>は、主人公が亡き友人の年の離れた妹とその娘と浜辺にいる場面から
過去の友人と妹のことなどを思い出しながら目では妹の幼い娘を追っている。

砂売りが通るは、フランスで眠くなることをさすときに使うそうです。
ああ、勉強になるなぁ~。

これは、ちょっとほんわかしたかんじかな?


最後の<城址にて>は主人公が、友人宅を訪ね、電車で出向き
そこで友人の同棲している女性と対面し、家で過ごす間の出来事を書いている。
向かう電車での様子、駅に迎えにきれくれた友人に会った時の様子
思わず、クスッと笑ってしまう。
友人宅のそばに復元工事の途中になっている城があり、それを見たいという
主人公に友人が案内してくれる。
けれど、それを見るのは、ドーベルマンと共に厳しい目を光らせている
番人の目に見つからないことが条件。

ちょっとハラハラした。そして、可笑しい。


どの話も良かった!
表紙の写真、かわいいな~と思ったけど、本を読んだあとみると
ちょっと切ないかんじがする。


                          ★★★★
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台所、居間、パソコン室、一日中、本を片手にあちこち移動しながら、読書しています♪

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★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
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