発行年月:2001年9月
戦後の長崎で出会った母娘との記憶はやがて不穏の色を濃くしていく。
映画化原作
(早川書房HPより)
映画化されるというので、原作を読んでみた。
改訂版が出版されているが、図書館で旧いのを借りて・・・
物語は戦後の長崎が舞台。
そこの風景がこの表紙の絵。
長崎で出会った悦子(映画では広瀬すず)と佐知子(映画では二階堂ふみ)の
話が主。
悦子は、夫・二郎(映画では松下浩平)と暮らしていて妊娠中。
佐知子は娘の万里子とふたりで長崎へ。
伯父の家に世話になっていたけれど、アメリカ人のフランクとアメリカに
行くつもりで、こちらに来たという。
が・・・フランクは一人でアメリカに渡ってしまう。
あっけらかんとした佐知子。そんな佐知子の言動に、ちょっと理解できない
悦子。
物語は、そんな悦子と佐知子が親しくしていた時代を過去のものとして
今はイギリスで一人暮らしをしている悦子の物語と交互で描かれる。
佐知子のことを非難するようなこともあった悦子だけど
二郎との子ども・景子は最近、自死してしまっていて、そんな母を
心配して次女のニキが訪ねてきている。
ニキはイギリスにわたってから知り合った二番目の夫との子らしい。
ニキの誕生までの話は出て来ないのでよくわからないけれど
結構、悦子も波乱万丈の人生だな・・・。
佐知子と親しくしていたころとは違う人みたいで
佐知子みたいだなと思ってしまった。
戦後の長崎という場所もあって、なんとなく暗いかんじだけれど
人間関係が丁寧に描かれていて、よかった。
映画化されたものも見てみたいな~。
★★★
発行年月:2018年12月
朝鮮半島の記憶が交差する。
(河出書房新社HPより)
ノーベル賞受賞作って、ちょっとよく理解できないなぁ~というものが
今まで多かったので、敬遠しがちがったんだけど、これは良かった!!
こういう文章はすき。
わかりやすい。
詩のように、白いものたち、ひとつひとつのことが短く描かれる。
そこにある情景などが自然と浮かんでくる。
表紙の写真にあるしろい産着は
産まれて2時間でこの世を去った、私の姉に母親が着せたものかな?と想像する
写真。
産まれてわずか2時間のことが映像をみるように頭にうかぶ。
そんな姉のことを「わたし」はずっと考えながら白いものたちのことを
語るかんじ。
著者が後ろの「作家の言葉」として書いたものを読むと、この本がどうやって
生まれたのかがわかる。
著者の本を翻訳していたポーランドの翻訳家がワルシャワに招待されたら
自分も行くと約束し、その地を訪れたときに、構想が浮かんだのだとか。
なるほど・・・ワルシャワの地でね・・・
静かだけど、何か強く心に響いてくる良い本だった。
著者の他の作品も読んでみたい。
★★★★★
発行年月:1990年6月
ノーベル文学賞受賞作家の代表作 解説:村上春樹(ノーベル賞記念版のみ) 品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々-――過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。 英国最高峰の文学賞、ブッカー賞受賞作
(中央公論社/発行)
主人公のスティーブンスの語りが上品で読んでいて優雅な気持ちになれる。
ダーリントンホールの前の主人・ダーリントン卿の思い出を自動車の旅を
しながら回顧する。
今の主人・フレディはアメリカ人。
そのフレディが5週間仕事で遠方に行くので休暇をとったらどうか?と
スティーブンスに勧める。
そしてスティーブンスは以前、共の働いたミス・ケントン(女中頭だった)から
少し前に何やら今の暮らしを憂いているような印象を受けたこともあり
彼女に会うことを旅の目的として出かける。
途中、親切な人たちに出会う、その人たちとの交流話は楽しかった。
そして思い出す、以前のダールントン・ホールのこと。
第一次世界大戦で敗戦国になったドイツのことや、その周辺のイギリス
フランスなどのこと、そしてアメリカ。
日本と離れたヨーロッパで起きていたことが少しわかる。
ダーリントン卿が品格ある主であったが、ヒットラーの企みに利用される
形になってしまったのが、なんとも切ない。
スティーブンスは、主のことを信じることが執事の務めと割っていたが
内心は心配もあっただろう。
旅の目的、ミス・ケントンとの再会は、スティーブンスの思い描いていた
ものと違うものになったけれど、それはそれで良かったんじゃないか?
離れていても元同僚としての親交が続くといいな。
いい物語だった。
イシグロ氏の物語は幾つか読んだけれど、今まで読んだ中で一番好き。
★★★★★
発行年月:2021年3月
人工知能を搭載したAFと呼ばれるロボットのクララは、
病弱な少女ジョジーの家で暮らすことになる。
やがて二人は友情を育んでゆくが、一家には大きな秘密があった……
愛とは、知性とは、家族とは? 生きることの意味を問う感動作。
ノーベル文学賞受賞第一作
(早川書房HPより)
最初は、お店のショーウインドウの中から外の世界を見て
誰かに選ばれるのを待つロボットのクララ。
お日さまの光を浴びると元気になれるので、出来るだけ、お日さまに当たりたい。
でも日によっては後ろの方に並ぶ日もあり・・・
そんなある日、クララと出会う。
二人は会った瞬間にお互いがかけがいのない存在になると直感。
クララに必ず迎えに来ると約束して去るが・・・・その後なかなか現れず・・・
そしてついにクララの家で暮らすことになる。
クララを選ぶとき、ジョジーの母・クリシーがクララにあるテストを
するのがちょっと気になった。
それはジョジーの真似を上手に出来るか?というもの。
賢いクララは巧く真似て母親にも気に入られたわけだけど・・・
クララとジョジーは、本当の友達のような関係になる。
けれどジョジーは時々、体調を崩しベッドで過ごす日も。
クララはジョジーに沢山のお日さまを浴びさせようとある計画を立て
隣家のリックもそれに協力する。
リックとジョジーは幼い時から仲良しで
この先もずっと一緒と約束し合っている。
クララがジョジーの家に来た理由は、単にジョジーの遊び相手としてという
ものではないことがわかったときは、ゾッとした。
クララが上手にジョジーの真似ができることをテストした意味がわかって
大人の身勝手さが恐ろしかった。
幸い、クララの思いが通じ、ジョジーが健康になったときはホッとした。
やがてジョジーは成長し、家を離れ自立するとクララは不要なロボットという
扱い。
哀しいけれど仕方ないのかな?
家族としてずっと家にいることも出来たと思うのだけど。。。。
でもクララは幸せそう。
ジョジーと過ごした日々を廃品置き場で回想している。
ロボットのなかには、自分が希望するような家に行けなかったものも
多く、そういう意味では相思相愛の家で過ごせたクララは幸せだったのかも。
カズオ・イシグロ氏の「わたしを離さないで」を随分前に読んだけれど
何か共通するものがある。
他の作品もまた読んでみよう。
★★★★
発行年月:2021年11月(単行本は2015年5月白水社より刊行)
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1979年、台北。中華商場の魔術師に魅せられた子どもたち。
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現実と幻想、過去と未来が溶けあう、どこか懐かしい極上の物語。
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現代台湾を代表する作家の連作短篇。単行本未収録短篇を併録。
著者
呉 明益 (ゴ,メイエキ)
1971年台北生まれ。現代台湾を代表する小説家・エッセイスト。97年、短篇集『本日公休』でデビュー。おもな小説に、『眠りの航路』『複眼人』『雨の島』など。『自転車泥棒』で国際ブッカー賞最終候補。
天野 健太郎 (アマノ ケンタロウ)
1971年生まれ。翻訳家・俳人。台湾文学・文化を積極的に紹介。訳書に、呉明益『自転車泥棒』、陳浩基『13・67』、龍應台『台湾海峡一九四九』など。句文集に『風景と自由』など。2018年没。
(河出文庫HPより)
以前読んだ中島京子さんの「小日向でお茶を」に出てきた本書
気になって読んでみた。
1970年代の子ども時代に同じ場所で過ごした人たちが、そのころのことを回想する形で
進む短篇連作。
共通して出て来るのは、、貧しい身なりで歩道橋の上でマジックを披露している
魔術師の男性。
子どもたちは、皆、その魔術師のことを気にかけていて、ふとした時に会話をする。
最初の話は、靴屋の息子がみた魔術師が操る紙の黒い小人。
どうやっているのか?気になるが教えてはくれない。
ある日、雨に濡れた小人がぺしゃんこになって道路に張り付いているのを
拾うとして腕がちぎれてしまい「小人が死んじゃった」と叫ぶ。
魔術師はその後、新たな小人を作る。
こんな風に話のそれぞれに、「死」を子どもたちが感じる瞬間が出て来る。
魔術師に関わった子達は、そのことを大人になっても覚えている。
独特の雰囲気があって、面白かった。
文章も読みやすい。
きっと訳者もいいんだろうな。
最後に単行本では未収録の短編があったけれど、なんだか雰囲気が違う感じがした。
読み終えて最後にみたら訳者が違う人だった。
天野氏が訳した「自転車泥棒」も読んでみようかな?
★★★★★
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記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;