追われた男はなぜ帰ってきたのか? 新・直木賞作家の心揺さぶる時代長編!

かつて一刀流道場の四天王の一人と謳われた新兵衛が、18年ぶりに山国の小藩に帰郷した。居候として迎えることになった若き藩士・藤吾は、迷惑なことと眉をひそめるが、やがて藩の不正をめぐる権力抗争が表面化する。
(角川書店HPより)
わたしのなかでは、今、一番好きな作家さんかも!!
今回の話もよかったぁ~。
冒頭のシ-ンから、感動してました。
地蔵院の庫裏に住む夫婦の会話・・・新兵衛と妻・篠のお互いを慈しむ様子が美しい。
妻・篠は病床の身。自身の命が短いことを知って、夫・新兵衛に頼みごとをする。
そして、新兵衛が、妻の頼みごとを受けて妻の死後、かつて暮らしていた土地に帰る。
18年前に藩の上役の不正を訴え藩を追放された伯父が帰郷したことに対して、新兵衛の甥・坂下藤吾は、当惑するが、母・里美は新兵衛を温かく家に迎え入れる。
里美は新兵衛の妻の妹。
藩に歯向かうことは自身の出世の妨げになると思いながらも抗争の渦に飲まれていく藤吾。
危ない目に遭うたび助けてくれるのは新兵衛。
新兵衛は若い頃、平山道場の四天王であった。
ほかに榊原才女、篠原三右衛門、坂下源之進。
源之進は藤吾の父であり、才女は藤吾が憧れる人物である。
才女の父・榊原平蔵は何者かに暗殺された。
藤吾の父・源之進は自害。
そして、新兵衛の妻・篠は、かつて才女の元に嫁ぐ寸前であった。
気になることが次から次へと出てきて、それぞれの真相は?と気になる気になる。
そのひとつひとつの疑問が少しずつ明かされていく面白さ。
いろいろな抗争のなかで非業の死を遂げる者もあり痛ましい部分もあったけれど、篠を巡っての才女と新兵衛の確執のようなものが解かれた終盤の二人の対峙する場面は感動した。
そして才女の一生を思うと、哀しい。
才女の母(実際は養母)の滋野も嫌な人だなと思って読んでいたけれど、本心みたいなものを知ったら哀れに思えた。
万事幸せとは行かない物語だけど、そんな状況のなかでも人を大切に想う気持ちの強さが伝わり、染入る感動があった。
ただ、最初は疎ましい存在と想っていた伯父・新兵衛を藤吾が頼りにし、里美も姉に代わり、新兵衛を愛おしく感じるラストは温かいものを感じた。
でも、再び、出て行ってしまうとは・・・・・・新兵衛ってどこまでも頑な人だな・・・・・格好いいけど・・・。
今回も十分に楽しませて貰いました♪
あ~早く、「蜩ノ記」読みたいなぁ~
まだ図書館本の順番待ちなのです・・・・^^;
天領である豊後日田(大分県日田市)で、私塾・咸宜園を主宰する広瀬淡窓(儒学者・詩人)と家業を継いだ弟・久兵衛の物語。入門にあたり年齢・学歴・身分を問わない淡窓の教育方針は当時としては画期的。全国から入門希望者が集まったが、お上にとっては危険な存在で、西国郡代からのいやがらせが続く。一方、掛屋を営む弟の久兵衛も、公共工事を請け負わされ、民の反発をかって苦境に陥っていた。
そんな折、大塩平八郎の乱に加わった元塾生が淡窓のもとに逃げてくる。お上に叛旗を翻した乱に加わった弟子に対し、淡窓はどんな決断を下すのか。また久兵衛は難局を乗り切ることができるのか。
本書は、直木賞作家である著者がデビュー以来、温めてきた題材。手を携えて困難に立ち向かいながらも清冽な生き方を貫こうとする広瀬兄弟の姿を通し、「長い雨が降り続いて心が折れそうになっても決して諦めてはいけない」というメッセージが切々と胸に迫る歴史小説。
(PHP研究所HPより)
今回の物語も感動しました!!
葉室さんの物語の主人公達って、人として、正しく生きるとはこういう事なんだ!と思わせてくれる人物ばかり。
広瀬淡窓と久兵衛、兄弟のそれぞれが、自分の与えられた場所で、常に正しいと思うことを己の信念に基づいて行っている姿に感動する。
淡窓は、私塾<咸宜園>を主宰して、門下生たちに慕われている。
塾の評判は高く、それを己の功績としたい郡代の塩谷大四郎から何かと干渉されている。
そして久兵衛は兄の淡窓に代わり、家業の博多屋(日田代官所出入りの御用達商人として財をなしてきた)を継いでいる。そしてやはり塩谷大四郎からは、何かと無理難題を言いつけられ、筑前海岸の神殿開発には莫大な費用とに人夫を投じてやり遂げた。成功すれば自分の手柄とし、失敗すれば責任を押し付けるやり方に、兄弟そろって悩まされている。
兄弟が、それぞれに尊敬し合いよき理解者となり、窮地を乗り越えている様子がいい。
次々に悩みの種が舞い込むが、次はどう切り抜ける?と楽しみになるほどだった。
淡窓の妻・ななと久兵衛の妻・りょうも奥ゆかしいかんじでよかった。
久兵衛の思い出の人に似ている、千世とのことでは、本心では心穏やかでいられないような時もあっただろうけど、騒がず静かに成り行きを見守ってるかんじには、いじらしさを感じた。
昔、社会科で習った、天保の大飢饉と大塩平八郎の乱なども物語に登場し、こういう時代背景での物語りだったんだ~と思い、昔、習ったことを改めて学習したかんじ。
大塩平八郎も淡窓と同じ儒学者で、飢饉に苦しむ民の暮らしを何とかしなくてはと思う気持ちは同じだった。
けれど、大塩は、過激な手段を使ったことにより自滅したかたちになってしまった。
二人の対照的な顛末もなかなか興味深かった。
表題の「霖雨」とは、何日も降り続く雨の意味らしい。
兄弟の会話のなかで印象的だった言葉を記しておこう。
たとえ霖雨の中にあろうとも進むべき道を誤ってはならない
ひとを潤す慈雨となる生き方をしなければならない
葉室さんの物語を読んでいると心が綺麗になる気がします。
プロ棋士の夢が破れた男と、金髪碧眼の不思議な美少女が出会う。
彼女に将棋を教えるといつしか奇跡的な才能が開花する…。
「天才とは何か?」厳しくも豊かな勝負の世界を生き生きと描き出す快作。
第24回小説すばる新人賞受賞作。
(集英社HPより)
将棋の話なので、理解出来るか心配でしたが・・・結構、面白く読めました!
表題の「香車」はキョウシャと読んで、将棋のコマの名前ということすら知らなかったわたし^^;
かつては将棋の世界にいた著者ならではの物語です!
登場人物が結構、多いけれど、女性陣のほうが魅力的。
将棋の天才的センスを持つサラ。
その能力を見出し、将棋を教える瀬尾健司。
瀬尾も以前はプロの棋士を目指していた。
将棋の世界では、4段からがプロで、給料もいただけるらしい。
そして、瀬尾とかつてプロを目指し入会していた「奨励会」で一緒だった萩原塔子。
塔子は女流棋士として有名になっていた。
瀬尾はいつかサラを塔子と対局させたいと言う。
サラとは別の場所で天才少女棋士として名が知れていた北森七海。
七海は塔子に憧れ目標にしていた。
サラ、七海、塔子の3人の物語がよい。
七海はサラと対局し、負けたことで将棋の世界から遠ざかる。
そして、終盤のサラと塔子の対局の場面。
ビックリなことが起きて・・・・・でもその後の物語が感動的だった!
二人の対局を見ていた七海も、再び違うかたちで将棋に関わっていこうと決め
ラストはそれぞれのこれからの活躍が期待出来そうでした。
始終、つかみどころのないサラの行動や発言。
でもそんな雰囲気が魅力的でもあり、サラの今後の話を特に知りたいな・・・と思った。
将棋を知らないわたしでも十分、楽しめたから、将棋を少しでも知っている方は、もっともっと楽しめるだろうなぁ~。
著者はこれがデビュ-作かな?
これからの作品も大いに期待できる作家さんがまた増えて嬉しい(^^)
曙光の人もある。夜陰を照らす月のごとき、脇役の人生もある。
「私は歴史の敗者を描きたい。彼らの存在に意味はなかったのかと」
50歳で創作活動に入り、アラカン世代で直木賞を受賞した歴史・時代小説家、初めての随筆集。
ひたむきに生きる人々の姿を、和歌や漢詩を引用しながら香り高く描いた作品がファンを広げている葉室麟氏。
小説のモデルとなった人物や、敬愛する作家、自身の読書遍歴、
50代で創作活動に入った思いなどをつづった。
直木賞受賞後に書かれた随筆のほか江戸時代の福岡・博多を舞台にした短編小説「夏芝居」も収録。
(西日本新聞社HPより)
こんなに格調高いエッセイは、今まで読んだことないなぁ~。
歴史は学校で習ってはいるけど、人物については意外と深くは知らない。
葉室さんの本では、今までの知っている歴史上の人物のほかにもあまり聞き馴染みのない人物も多々登場。
そして葉室さんの取り上げる人物たちに共通しているのが、ひたむきさ。
真摯に自分のできることを世のため、人のために黙々とこなしていく。
この随筆集を読むと、葉室さん自身にそんな雰囲気がみえる。
北重人さんとの思い出を語った箇所は感慨深かった。
北さんの作品をわたしも幾つか読んで、まだまだ作品を読ませて貰いたいと思っていたのに61歳という若さで2009年に亡くなって、とても残念に思っていたので、その北さんとのエピソ-ドを読んで、ジ~ンと来るものがあった。
そして、若い頃、読んだ書をもう一度読むことにより、記憶のなかの懐かしい自分と対話する時間を持てるという部分には、なるほど~!と思った。
葉室さんが若い頃に読んだという「心変わり」(ミシャエル・ビュト-ル/著 清水徹/訳)を、読んでみようかなぁ~。
最後の短編「夏芝居」も良かった!
若い頃、夏芝居を父親と見に行き、そこで知り合った男性と駆け落ち騒動まで起こしたことのある、お若が10年ぶりにその男性・市助と再会する話。
お若の夫・治三郎が粋だなぁ~。
短編は読んだことないけれど、面白かった!
過去の作品には短編集もあるのだろうか?
探してみようかな?
表題の意味も随筆を読むとよくわかる。
どうか長く作家活動を続けてください!!と言いたい作家さん。
家老と一藩士の、少年時代からの友情と相克を描く松本清張賞受賞作
江戸中期、西国の地方藩で同じ道場に通った少年二人。
不名誉な死を遂げた父を持つ藩士・源五の友は、いまや名家老となっていた
(文藝春秋HPより)
素晴らしかった!!
なんと美しい文章なんでしょう。
葉室作品を読むようになったのは、最近なので、まだ読んだ作品数が少ないのですが
ハズレにない作家さんですね!
この書は、3月24日の記事同一著者の「無双の花」にコメントを下さった、ひろさんから薦められたものです。
薦めてくださってありがとうございますm(__)m
物語は、家老となった松浦将監が領内の新田の様子を視察に来て、郡方側の日下部源五がその案内役を命じられ二人が久しぶりに顔を合わすところから始まる。
将監と源五は12歳~13歳頃、剣術を学ぶ道場で知り合い、それ以後親しくなったが、ある事を境に二人の間には隔たりが生じていた。
そして、物語は、まだ二人が知り合った頃の出来事から語られていく。
現在の身分が違う二人の姿を織り交ぜながら。
二人が出会った頃に知り合った十蔵と3人で夏祭りに行き、夜空を見上げて話す場面が印象的。
それがは、その後の成長した3人にも同じように思い出深い場面として心に留められていたのだとわかる場面では、ジ~ンと胸が熱くなった。
十蔵が大切に保管していた蘇軾(そしょく)の「中秋月」という漢詩
暮雲収め尽くして清寒溢れ
銀漢声無く玉盤を転ず
此の生、此の夜、長くは好からず
明月、明年、何れの処にて看ん
日暮れ方、雲が無くなり、さわやかな涼気が満ち
銀河には玉の盆のような明月が音も無くのぼる。
この美しい人生、この楽しい夜も永久につづくわけではない。
この明月を、明年はどこで眺めることだろう。
これを持っていた十蔵の気持ちを思うと泣けた。
将監に絶縁状を送った源五の気持ちもわかったけれど、将監の立場ならば十蔵に行ったことも仕方のないことだったとわかる。
ところどころに漢詩が出て来るのですが、これがとても効果的だった。
漢詩はよくわからないのですが・・・ちゃんとどんな意味か書いてくれているので助かります。
詩の言葉がそのときの登場人物の気持ちや情景がよく表していました。
終盤、脱藩し、江戸に向かうという将監を助ける源五。
無事に果たせるのか?ハラハラドキドキ。
緊迫感が終盤で増して、盛り上がりました!
葉室作品にハズレなしの予感。
まだまだ未読の過去作品がたくさんあるので、これから読んでいこう!
たのしみ♪たのしみ♪
これは文句なしの★5つ・・・以上だな。
★★★★★
記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;