発行年月:1998年8月
沖縄・波照間島住民がまきこまれた戦争マラリアの惨劇と、
よみがえる島人を描いた作品。
(かど創房/発行)
先に読んだ安東きみえさんの「夜叉神川」の中に出てきたお話になかに
これが元になったんだろうなという話があり、興味を覚えたので読んでみた。
沖縄の波照間島という名前も知らなかった。
西表島から南に進んだところにある小さな離島。
自然豊かなその地で平和に暮らしていた人たちが、次第に戦争の脅威に
翻弄されていく。
沖縄本土で決戦が始まり、島民たちは軍から赴任してきた新しい教師・山下を
最初は軍の人間とは知らず、温かく迎え、山下自身も「島民のお役に立ちたい」
と語り、子どもたちとも遊んだりして過ごす。
が・・・ある日、突然、豹変し島民たちを指示する。
手には刀を持ち、強制的に離島し疎開することを命令する。
仕方なく西表島(南風見田/はえみた)に移った島民たちだったが、
波照間島の環境とは雲泥の差で蒸し暑く、蚊の媒介によりマラリアの感染が広がり、
人々は苦しみながら命を落としていく。
敵は攻めてこないのに、こんな風に最期を迎えた人たちが大勢いたことが
哀しい。
山下には腹が立って仕方ない。
そんな環境でも識名校長は青空教室を開いたり、この劣悪な環境では
生きていけないと八重山軍刀の主部隊、旅団長に船で数名と共に夜中
向かい直訴し、それが受け入れられ波照間島に帰島することが許される。
山下に毅然と立ち向かった識名校長たちは素晴らしい。
島民のことを守ったのだから。
島を離れるとき、岩に刻んだ 「忘勿石 ハテルマ シキナ」の文字
元の島に戻れた島民は少なかったようだけれど、その後は平和な暮らしが
続いてよかった。
知らなかったことを学んだ。
★★★★★
発行年月:2021年11月(単行本は2015年5月白水社より刊行)
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1979年、台北。中華商場の魔術師に魅せられた子どもたち。
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現実と幻想、過去と未来が溶けあう、どこか懐かしい極上の物語。
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現代台湾を代表する作家の連作短篇。単行本未収録短篇を併録。
著者
呉 明益 (ゴ,メイエキ)
1971年台北生まれ。現代台湾を代表する小説家・エッセイスト。97年、短篇集『本日公休』でデビュー。おもな小説に、『眠りの航路』『複眼人』『雨の島』など。『自転車泥棒』で国際ブッカー賞最終候補。
天野 健太郎 (アマノ ケンタロウ)
1971年生まれ。翻訳家・俳人。台湾文学・文化を積極的に紹介。訳書に、呉明益『自転車泥棒』、陳浩基『13・67』、龍應台『台湾海峡一九四九』など。句文集に『風景と自由』など。2018年没。
(河出文庫HPより)
以前読んだ中島京子さんの「小日向でお茶を」に出てきた本書
気になって読んでみた。
1970年代の子ども時代に同じ場所で過ごした人たちが、そのころのことを回想する形で
進む短篇連作。
共通して出て来るのは、、貧しい身なりで歩道橋の上でマジックを披露している
魔術師の男性。
子どもたちは、皆、その魔術師のことを気にかけていて、ふとした時に会話をする。
最初の話は、靴屋の息子がみた魔術師が操る紙の黒い小人。
どうやっているのか?気になるが教えてはくれない。
ある日、雨に濡れた小人がぺしゃんこになって道路に張り付いているのを
拾うとして腕がちぎれてしまい「小人が死んじゃった」と叫ぶ。
魔術師はその後、新たな小人を作る。
こんな風に話のそれぞれに、「死」を子どもたちが感じる瞬間が出て来る。
魔術師に関わった子達は、そのことを大人になっても覚えている。
独特の雰囲気があって、面白かった。
文章も読みやすい。
きっと訳者もいいんだろうな。
最後に単行本では未収録の短編があったけれど、なんだか雰囲気が違う感じがした。
読み終えて最後にみたら訳者が違う人だった。
天野氏が訳した「自転車泥棒」も読んでみようかな?
★★★★★
発行年月:2021年1月
(講談社HPより)
5つのお話、どれも良かった。
主人公は小学生~中学生。
ちょっとした悪意が絡むけれど、不思議なことに遭遇したことによって
その後の心持が変わってくる。
共通して出て来るのは、夜叉神川という名前の川。
主人公たちは、この川が流れる町で暮らしている。
好きだったのは「スノードロップ」
奥さんが亡くなり一人暮らしをしている松井さん(70~80歳?)
奥さんが居たころは優しい印象だったのに、偏屈なおじいさんになってしまった。
そんな松井さんが飼っている犬のゴン。
ゴンも今はただ顔を見ると激しく吠えるだけの怖い犬になってしまった。
そんな松井さんに怒鳴られ、思わず「あんたなんか死ね」とつぶやいてしまう。
後日、寒い夜、塾帰りに見かけた松井さんとゴン。
少し様子が変で気になる。
この主人公の男の子(小5)は優しい子だなと思った。
そして松井さんもそんな男の子と会話して、少し変わってくれたような・・・。
スノードロップは松井さんの家の庭にあった花で
生前松井さんの奥さんが少年に名前を教えてくれた花。
最後の<果ての浜>もよかった。
個人塾を経営している夫婦が主催の春休みの沖縄ツアーに参加した
小6のおれ。中学受験に合格出来て嬉しい気持ちで参加。
小2の弟・翔も参加。
沖縄には戦時中、悲惨な出来事があったと聞き、「そんな話、聞きたくない」と
内心で思う、おれ。
その後、サトウキビ畑で弟が隠れ見つからない探しているとき、小さい子どもの声を
あちらこちらで聞くという不思議な体験をする。
弟は、今度は浜であそぼうって。そのときに、ひーじゃーを持って来てってと。
先生に聞くとヤギのことらしい。
弟がその晩、熱を出したので、おれは弟の代わりに浜へ。
弟が買ったヤギのぬいぐるみを持って・・・
波照間島に暮らしてい軍の命令で西表島に移住させられ悲惨な最期を迎えたという
話は知らなかった。
そんな絶望的な状況でも、子どもたちを集めて青空教室を開いていた
識名先生は素晴らしいと思う。
そんなことを忘れないでと石碑もあるとか。
「ハテルマ シキナ」桜井信夫/著 という本にはそういうことが書いてあるとか。
早速、読んでみたい。
★★★★★
発行年月:2025年1月
有名広告代理店を早期退職し、月十万円ずつ蓄えを切り崩しながら穏やかな暮らしを送るキョウコ。おかめの手ぬぐいで頬被りしてアパートの庭の雑草抜きに勤しんだり、隣人のチユキさんの悩みを聞いてあげたり、友だちのマユちゃんが遊びにきたり……と、楽しく自由な日々。小さな幸せを大切にするロングセラー「れんげ荘物語」シリーズ、みなさんに愛されて待望の第9弾。
書き下ろし最新長篇。
(角川春樹事務所HPより)
タイトルに恋愛があったので、もしかしてキョウコに?と
ちょっと期待したけれど、キョウコは何ら変わり映えのしない日常だった( ´艸`)
れんげ荘の住人、チユキが離れて暮らす恋人との関係を見直す話は
そうだね。それは別れてもいいかもね・・・と思った。
数日、暮らして疲れると感じるのなら会いに行く意味もないだろうし・・・。
チユキは、本当にきっぱり別れるのかな?
同じく、れんげ荘のクマガイさんは、いつもマイペースでいい。
雑草を抜くことに一生懸命になるキョウコに「がんばりすぎないでね」と
忠告。
キョウコの性格って、ちょっと面倒くさいかも・・・。
やることがないと言っているのなら他にやること見つけたらいいと思うけれど
何もしないで穏やかに暮らすと決めたことを貫こうとしているのなら
それは大きなお世話ということになってしまうか?
一人暮らしでも近くにお兄さん夫婦もいるし
お兄さん夫婦の子どもたち(甥と姪)との関係も良好そうなので
いざという時は、なんとかなりそうかな?
シリーズ9作目ということは、キョウコはもうすぐ還暦かな?
もっと先、どういう暮らしぶりになっているのか気になるので緩く
続けてほしいシリーズ。
★★★
発行年月:2024年4月
(創元推理文庫HPより)
前作の「秋期限定栗きんとん事件」が2009年。
随分と間が空いたものだ・・・。
でも、読んでいれば、小鳩くんと小佐内さんの雰囲気を思い出して
「ああ、こういうかんじだったか・・・」と懐かしくなった。
今回は小鳩くんがひき逃げされて大怪我を負い、入院。
ベットの上で3年前、同じようにひき逃げされた事件の真相を追っていた
ことを回想しながら物語が進む。
小鳩くんと小佐内さんは3年前の事件を追っていたときに知り合ったんだ~。
そのときの被害者は当時中学3年生でクラスメイトだった日坂祥太郎。
小鳩くんは、日坂くんを轢いた犯人を突き詰めようとしながら行動するなかで
日坂くんを傷つけてしまったことに気づき落ち込む。
小鳩くんに車をぶつけた犯人がわかったときは、ビックリ!
えぇ~っ!!
全然、想像していなかった。
ちょっと複雑な心境になる結末だったけれど、面白かった。
高校を卒業して、一旦はお別れの小鳩くんと小佐内さん。
次回、京都で再会する日がくるといいな・・・。
小市民シリーズ 巴里マカロンの謎は読んでいないな。今度、借りてみようかな。
★★★★
記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;