1616年、北極海。
たったひとりの越冬。
明けない夜。荒れ狂う吹雪。愛した女の幻影。
一冊の日誌-----。
底知れない悲しみを抱えた男の極北での越冬と魂の救済。
400年前の航海日誌から紡ぎだされた、壮大なデビュ-長編。
(本の帯文より)
この寒い時期に読むと、一段とこの本の世界の冷たく凍えるようなかんじがリアルに伝わって来ました。
物語の主人公は、トマス・ケイヴ。
北極海への捕鯨船に乗り組む。
そして、漁を終え、故郷イングランドに戻るというときに、乗り組み員同士の口論に口出ししたことが元で北極海に一人残ることになる。
そんな成り行きで一人置いていく方もひどいと思ったけれど・・・
ケイヴは、淡々としている。
そして、極寒の地での孤独な1年の暮らしが始まる。
物語の語り部は、寡黙でほかの乗り組み員たちと馴染もうとしなかったケイヴが唯一、打ち解けて話をした乗り組み員のなかでは年少のトマス・グ-ドラ-ド。
名前がおなじというところからもお互いに親近感を覚え近づく二人。
グ-ドラ-ド目線で書かれている部分が多いけど、やはりケイヴが一人で過ごしている場面は壮絶で哀しい。
ケイヴの人物像が段々と明かされ、船に乗り組む前に妻と子どもを一度に失っていたのだとわかる。
そして妻・ヨハンネの幻影が時々、目の前に現れる。
かつて妻と会話した場面が蘇る。
そして自分が彼女に寂しい思いをさせていたことに悔いるケイヴ。
現実に戻れば、厳しい自然のなか。孤独。
普通の精神状態を保つだけでも大変な日々を、なんとか耐える。
元々几帳面なケイヴは、いろいろなことを書き留める。
日誌を書くことで精神の平静を保つ。
なんとか1年を一人で生き、再び仲間が船で迎えに来たが、喜びを顔に出すことはなかったケイヴ。
それから年月が経ち、グ-ドラ-ドも成人し結婚し、ケイヴのことを再び探し再会したいと思いその再会は叶うのだけど、そこで彼が言う言葉
「・・・・あそこへは行くべきじゃなかった」
「神が人間を行かせるおつもりのなかったところへ、俺たちは行ってしまったんだ。俺たちは神を超えてしまったんだよ」
自然の脅威を肌で感じたケイヴの言葉が、とても威厳に満ちている。
何か人間離れしたかんじの人だな。
これがデビュ-作らしいけど、今後の作品も是非、読みたい作家さんだ!
★★★★★
PR
思い出せない、最愛の人の言葉。脳裏から離れない、ある夜の景色。

記憶を保存する装置を手に入れた認知症の老女。ダムに沈む中国の村の人々。赴任先の朝鮮半島で傷ついたタンチョウヅルに出会う米兵。ナチス政権下の孤児院からアメリカに逃れた少女――。異なる場所や時代に生きる人々と、彼らを世界に繋ぎとめる「記憶」をめぐる六つの物語。英米で絶賛される若手作家による、静謐で雄大な最新短篇集。
(新潮社HPより)
6つのお話から成る短編集。
「メモリ-・ウォ-ル」
認知症と診断された74歳のアルマ。
使用人のフェコに連れられて、アムネスティ医師の元に通っている。
壁には沢山の沢山の紙片と数百のプラスチック製カ-トリッジ。
それらはアルマの記憶の断片を蘇らせるものたち。
亡くなった夫・ハロルドとの思い出。
表題作の作品は、一番最初。
認知症を患う女性が、医師によってされる治療がなんとも不思議なもの。
頭に埋め込まれたものから記憶を回収されそれはカートリッジに収められる。
そして自宅で遠隔記憶刺激装置により、カ-トリッジを頭にはめ込み映像をみるように記憶が再生される。
ちょっとSFの要素のある物語。
次の「生殖せよ、発生せよ」は不妊治療を受ける夫婦の物語。
自然に妊娠するって、凄い神秘的なことなんだなぁ~と改めて思った。
わかったつもりでいたけれど・・・・。
「非武装地帯」は戦地から手紙を送り続ける息子のはなし。
かもめの群れの話やら鳥をみて思うことなどを綴られている。
そして、あるひ、傷ついたツルを見つけ地雷の恐怖に怯えならがもなんとか助けた話なども綴る。
すごく短い話だけれど、なんだか胸に響くものがあった。
「一一三号村」は、ダムが出来ることで、水に沈むことが決まっている中国の村人たちの様子を描いたもの。
村の自然の美しい情景が目に浮かぶような箇所で村一番の長老の言う言葉が印象的。
<これが見納めだと分かっていると、その場所は違って見えるのだよ・・・・二度と人目に触れることがないと分かっていることが、その場所を変えるのかもしれん>
「ネムナス川」両親を15歳で相次いで亡くした少女・アリソンは、リストニアのおじいちゃんの元で暮らすことになる。
家のそばには、ナムナス川が流れていて、昔はチョウザメがよく釣れたと聞く。
チョウザメ釣りに挑戦するアリソンとおじいちゃん。なんだかほのぼの。
隣(?)に住んでるサボおばあちゃんも可愛い。
彼女がずっと幸せでありますように・・・・
「来世」は、ちょっと重い物語の背景。
ナチスドイツが占領下にあった時代を生き延びたユダヤ人のはなし。
そこからなんとか逃れアメリカに来た少女がやがて、孫に囲まれて暮らしている。
過去の思い出と現在を交互に語りながら進む。
暗く苦しい過去も、子どもたちが新しい世界につくりかえてくれたら、嬉しい。
全然、違う雰囲気のお話ですが、そこにあるのは、「記憶」の物語。
数々の賞をもらっているのも納得!!
訳者のあとがきに、著者は長編作品にとりかっかっているとあった。
早く、完成して翻訳されたものが読みたいな~。
★★★★★
歴史的な悲劇から、
希望に溢れる神話が生まれた─
全米ベストセラー、人気若手作家による9・11文学の金字塔、ついに邦訳。9歳の少年オスカーは、ある鍵にぴったり合う錠前を見つけるために、ママには内緒でニューヨークじゅうを探しまわっている。その謎の鍵は、あの日に死んだパパのものだった……。全米が笑い、感動して、心の奥深くから癒された、時代の悲劇と再生の物語。ヴィジュアル・ライティングの手法で編まれる新しい読書体験も話題に。
(NHK出版HPより)
雑誌にあった本の紹介で知り、気になって図書館で借りました。
かなり厚い本です。
主人公のオスカ-少年が9.11で亡くなった父親の遺品のなかから見つけたもの。
鍵と赤いペンで書いた「ブラック」の文字。
この鍵は何の鍵?
ブラックとは?
9歳にしては、しっかりしてるというか、賢いしマセテいるオスカ-。
いろいろなブラックさんを尋ね歩き、父親を知っているか?聞いて行く。
それと鍵が合う鍵穴も捜し回る。
時には笑える。でも何ら手がかりがつかめず・・・
それでもまた探し続けるオスカ-の姿がいじらしい。
そして、物語は、オスカ-の祖父母の若い頃の話にも広がる。
アメリカがかつてしてきた戦争のこと。
そのなかには、広島の原子爆弾投下のことも出てきて、ドキッとした。
父親を亡くしたオスカ-の物語であると同時に、世界中のある日、突然、命を奪われた人やその人を大切だと思っている人たちの物語でもある。
読者が自分の立場に置き換えて読み進めていける。
文章のなかにも今までなかったような手法が使われていたり、写真も豊富で視覚的にも刺激的。
ラストのイラストたち(写真)にも魅せられた!
あとがきを読んで、これ今年映画公開されるとか?
トムハンクスとサンドラブロックがオスカ-少年の両親役!?
わ~絶対に見たい!!!
★★★★
元数学科教諭オリーヴの不器用な生き方は、周囲を少しだけ変えていく──。ごく普通の人々がかかえる後悔、苦しみ、喜び、希望。かけがえのない人生を静かな筆致で描く、ピュリッツァー賞受賞作
(早川書房HPより)
13の話から成る短編連作集。
主人公は、表題通り<オリ-ヴ・キタリッジ>。
最初の話「薬局」では、まだオリ-ヴがというよりも、オリ-ヴの夫・ヘンリ-・キタリッジの営む薬局を中心に、そこに行き来する人々のことが書かれている。
ヘンリ-が知り合った若い夫婦を自宅の夕飯に招待したり・・・・。
そして次の話からは、キタリッジ夫妻の近隣に住む人々が主人公になっている話が多い。
何らかの関わりが夫妻(特にオリ-ヴ)にあるのだけど・・・。
そして、オリ-ヴという女性のいろいろな性格がそれぞれの話のなかで明らかにされていくのが面白い。
自殺を考えて昔住んでいた場所を訪れた元教え子と再会する場面では、教師らしい優しい言葉をかける。
一方、息子の嫁のことは気に入らず口論になったりする「あんな女、死んじゃえばいいのに」なんて口にしたりもする・・・でも口論の翌日にはアップルソ-スを持っていく。
夫が介護施設に入所すれば、毎日通い、道に倒れている人がいれば、心配で近づき、病院まで付き添ったり・・・・
あ~この女性、いいなぁ~。
目の前で起こっていることに関わらずにいられない人なんだろうなぁ~。
そしてオリ-ヴの冷静な考え方が好き。
最後の話の方では70代になったオリ-ヴ。
夫のヘンリ-は、介護施設で亡くなってしまった。
クリストファ-は再婚し、今度の嫁・アンもちょっと変わってるけど、なかなか愉快でオリ-ヴとも良い関係が築けるかも?
そして、道で倒れているところを助けてあげたジャック・ケニソンとは、なかなか良いかんじ?
オリ-ヴの生活を年を追って描いただけの作品だけど、読む終えると、自分のこれからの人生も淡々としてはいるけど、そこにちょっとした喜びやら驚きやら哀しみやらあるんだろうな・・・・・。
なんて思って、しみじみしてしまった。
この年になって読むから感じるものがいろいろあったなぁ~。
若い人には、もしかしたら退屈な本かもしれないけれど・・・・。
★★★★
狡猾で好色なノーベル賞受賞科学者ビアードは、同僚の発明を横取りしてひと儲けを狙っている。彼を取り巻く、優しくも打算的な女たち。残酷で移り気なマスメディア。欺瞞に満ちた科学界とエネルギー業界。ひとりの男の人生の悲哀とともに、現代社会の矛盾と滑稽さを容赦なく描き切る、イギリスの名匠による痛快でやがて悲しい最新長篇。
(新潮社HPより)
いろいろな物語を書く作家だなぁ~。
今回のお話の主人公は、ノ-ベル賞科学者・ビア-ド。
ノ-ベル賞受賞後は、各地の講演など出向くものの、その後の研究成果はいまひとつ。
でも、ノ-ベル賞を受賞した事実があるだけで凄いと尊敬する!
普通ならば・・・・。
この主人公、私生活では全く尊敬出来ない。
5度目の結婚も破綻寸前。
今までの妻たちは、ビア-ドの女性関係のだらしなさに嫌気がさして別れているのだけど、懲りない人。
各地に講演に行ってはその地で女性に声をかける。
どうしたら、ベッドまで連れ込めるか?なんて妄想してる嫌なオヤジ^^;
ついには5番目の妻は反撃に出た。
自分も浮気をしたわけだけど、これがある事件を引き起こす。
自分の浮気は棚にあげ、妻の浮気相手には腹を立てるビア-ド。
まるでお子ちゃまですね・・・。
物語は3部構成で
1部は、ビア-ドの妻の浮気発覚に伴うある事件までの話。
2部は、5度目の結婚もついに終わり、独身の身になったビア-ドのその後。
そして、6番目の妻になる?メリッサとのこと。
仕事の方では同僚の研究成果を盗み、それをなんとか利益の出るものにしようと目論む。
あ~どこまで最低な男なんだろ?
3部では、ビア-ドの両親の話からビア-ドの子ども時代~青年時代の話が書かれ、なるほど~ビア-ゾの血は母親譲りであったのか?と納得。
最低な男だけど、運は良いみたい。
根っからの悪党というわけでもないから、どこか憎めないかんじもあるし・・・・
6番目の妻(?)との間に出来た娘・カトリオナがなにやらビア-ドの生き方を変えてくれそうなかんじだし、5番目の妻の浮気相手が尋ねて来て、告白されたことも、ビア-ドに何かを感じさせたかも?
最後に、ビア-ドのノ-ベル賞受賞時のスピ-チが載っていた。
これだけの言葉をしゃべった人の私生活が今まで読んでいたことなのか?と思うと、なんだか空しいかんじになったけど、案外、世の中、こういう矛盾だらけなのかもしれないなぁ~。
マキュ-アンのブラックなセンス炸裂なかんじの物語でした(^^)
★★★★★
カテゴリー
フリーエリア
最新記事
(04/18)
(04/16)
(04/10)
(04/07)
(04/03)
最新トラックバック
プロフィール
HN:
kyoko
HP:
性別:
女性
自己紹介:
台所、居間、パソコン室、一日中、本を片手にあちこち移動しながら、読書しています♪
記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;
記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;
ブログ内検索
P R
カウンター
フリーエリア