昭和41年の東京下町。
山形・酒田から出てきた受験浪人生の康夫は、
住み込みの<個室あり>のふれ込みに惹かれて、Y新聞販売店で働くことに。個室といっても段ボ-ルで仕切られただけのもの。
同じように住み込みで働く仲間と、配達先で出会う人々との関わりを描いた青春小説。
著者の北氏は、確か山形県酒田の出身。
以前、読んだ「汐のなごり」でも故郷の物語を書いていました。
故郷の酒田が、きっと好きなんですね。
「汐のなごり」は時代物でしたが、こちらは、ちょっと前の話ですが現代物。
主人公の康夫が、40年前のことを振り返るという形で物語が始まります。
昭和41年の東京といえば、ちょっと前に読んだ奥田英朗の「オリンピックの身代金」と同じ時代。
ちょっと共通するような話もありました。
大学受験に失敗し、故郷で浪人生活をしても合格の見込みは少ないのでは?と考えた康夫は自分の意志で東京に出て、そこの予備校に通うことに決めます。
国立大学入学を目指して。
目標に向かって、慣れない環境でヘトヘトになりながらも懸命に生きる主人公の姿は自然と応援したくなります。
でも、途中、配達先の高校生・サキと出会い、恋に落ち、一時、勉強よりデ-トに夢中になるところでは、苦笑い。
ま、若いから仕方ないけど・・・^^;
でも、これがまた一大事へと発展するのでハラハラ。
出てくる人たちが、一風変わっていて、可笑しい。
でも、みんなそれぞれ夢に向かって真剣に生きてるんだろうな~。
そんななか、浪人生の矢田は、気の毒だったなぁ~。
東大合格後、3ヶ月で休学しその後、退学・・・しばらくして、再び受験、合格・・・・でも入学手続きせず・・・なんで!?
その理由は、哀しい。
勿体無いなぁ~。なまじこんなに頭良くなかったら、別の人生あったかもしれないのに。
でも、それは矢田の性格だから、同じなのかな?
なんて、主人公・康夫の将来よりも、こちらに興味の矛先が変わりました。
最後、再び、現在の康夫に戻って語る話しで、あ~みんなそれぞれ大人になったのね?
と嬉しかった。
表題の「鳥かご」読む前は「なんのことかな?」と思いましたが、なるほど!
ま、これはすぐ分かることですけどね。
発行年月:2008年9月(第1刷)
2009年2月(第3刷)
北前船の着く湊町は賑やかで慌ただしい。銭と汗の匂いのする町を舞台に、想い人を待ち続ける元遊女や三十年間、敵討ちの漂白の果て、故郷に戻ってきた絵師、飢饉から逃れ数十年、行方の知れなかった兄と邂逅する古手問屋、米相場の修羅に生きる男など心を打つ六編の物語
(本の帯文より)
馴染みのない時代小説でしたが、どの話も静かに胸に迫るものがありました。
落ち着いた大人が楽しめるはなし。
6つの話は、おなじ地域が舞台の様子。
著者自身が山形県酒田市の出身なので、出てくる、地名は馴染みがないものですが、湊町や大きな山、川が出てくるので、出身地をイメ-ジして書かれているのかも。
最初のはなし「海上神火」は、貧しさから遊女となり、その後、身請け先の主人の後を継いで店の女将になっている志津が主人公。遊女時代からずっと想っている男性・吉蔵との恋の物語で、なかなかロマンチックで特に心に残りました。
どれもそれぞれ素敵な話でしたが、ほかにも挙げると・・・
「海羽山」は、飢饉により両親を失った兄弟も故郷から逃げ出す途中に離れ離れになり、その後、行方知れずになっていたが、50年ぶりに再会する話。
飢饉の当時の話は、なかなか壮絶な様子で少し、読むのが辛い箇所ありましたが、二人が再会できてよかった!
「塞道の神」は、娘が他所の男性に恋狂いしていることに気づいた母が、かつて自身の夫が恋狂いをしていた、女性に相談に行く話。
その女性は、今は、尼になり人々の悩みに的確なアドバイスをしているとか。
恋狂いを冷ます方法があるのだと言い、それを施し、更にその後の指導も受ける。
ちょっと面白いオチがあったりして良かった!
「合百の藤次」は、米相場でのかけ引きの様子を書いたもので、今の時代にはない、米会所での男たちの活気溢れる様子が面白かった。
時代物で、ちょっと馴染みにくい言葉遣いがありますが、慣れるとそれが、また独特の雰囲気を漂わせてくれて、時代を越えた人々の暮らしぶりを垣間見るような楽しさがありました。
★★★★
記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;