発行年月:2016年10月
わたしは、何者にもなれる。
千紗子という新たな名前を持つこと。
心の裡を言葉にすること。
自分を解放するために得た術が
彼女の人生を大きく変えた――
明治の終わりの沖縄で、士族の家に生まれたツタ。
父親の事業の失敗によって、暮らしは貧しくなるが、
女学校の友人・キヨ子の家で音楽や文学に触れるうち、
「書くこと」に目覚める。
やがて自分の裡にあるものを言葉にすることで、
窮屈な世界から自分を解き放てると知ったツタは、「作家として立つ」と誓う。
結婚や出産、思いがけない恋愛と哀しい別れを経て、
ツタは昭和七年に婦人雑誌に投稿した作品でデビューする機会を得た。
ところが、待ち受けていたのは、思いもよらない抗議だった……。
「幻の女流作家」となったツタの数奇な運命。
(実業之日本社HPより)
沖縄生まれのツタ。
最初の夫は、銀行員。
勤務先は台湾。台湾での新婚生活。
最初の子どもは2歳で急性腸カタルで死亡。
その後、東京に夫と戻り二人目が生まれるが、銀行員をクビになった夫の
職がなかなか決まらず、そんななか、喫茶店経営を始めると言いだす夫。
子どもの面倒がままならず、沖縄の夫の実家に預けることになる。
ツタが心労で倒れ店は畳む。
一軒家を借りて、下宿人を置くことに。
下宿人は浪人して医大を目指す充。
夫との関係がギクシャクしこのまま一緒にいても・・・とツタから
別れを切り出し、夫も納得。
手切れ金の800円を貰い、女学校時代からの親友のキヨ子がいる東京へ。
受験を控えた充が東京についてくる。医大合格した充はツタと恋愛関係に。
充の生活はツタが面倒をみるかたちで手切れ金をそこで使い込む。
女学校時代から、雑誌に和歌などを掲載されていたツタは再び書くことに
熱中し、小説が本になる。
が、沖縄を侮辱するのか?と地位ある人たちからは批判され釈明文をつける
ことでなんとか認めてもらう。
充との間び女の子が生まれ、翌年には男の子が生まれるが、充の実家からは
ツタを嫁とは認めて貰えぬまま。
充は医大卒業し、町医者に。
長男が38歳で突然、事故で亡くなる。
充と同じ道を進み、いずれは病院を継ぐ予定だったのに。
充は、ツタが晩年、信仰した宗教(充が大病したのを機に信仰)の
支部で活動を続け大勢の前で法話をしたり忙しくしている姿が気に入らず
不満が爆発して度々、癇癪を起すようになる。
ツタの父親と同じような・・・。ツタは母親と同じ思いをすることになる。
沖縄で育った最初の子どもはどうなったんだろ?とずっと心配だったけど
ちゃんと再会したという箇所があり、立派に成長していたのでホッとする。
ツタの人生、波乱万丈だったけど、親友のキヨ子の存在が大きかったんじゃないかな?
どんなときにも味方でいてくれる友の存在は貴重だったでしょう。
いまわの際、こんな風に自分の人生を振り返り満足して生を終えたであろう
ツタは生き切った!と思えたんだろうなぁ~。
なかなか面白かった!
ドラマ化しても面白いかも。
★★★★
発行年月:2005年8月
森の中の緑のポストに届くさよならの手紙。
そこにつづられたさまざまな別れがささやきかけてくるものは……。
ポストを守るおじいさんのモノローグでつなぐ8話のファンタジー。
(平凡社HPより)
緑色のポストに届く手紙を開封して読むポストの番人。
返事は書かないのがルール。
ただお話を読む。
<だれもいない森>
深い森のなかに80年住んでいるふくろうからの手紙。
<星になったライオン>
丘の上から町を四季ごとに交代で見守った4頭のライオンたちの話。
<おばあさんの水晶>
代々、受け継がれてきた水晶玉。
男の子が譲り受けるが、仲良しの女の子から魔女の玉だからきらい。
捨てちゃえば?と言われて海へ。
その時から帰らない男の子と女の子。
<ネムのはなし>
大昔の貝や化石や恐竜の骨たちを山の神の言い付けでそれらを盗みに来る者から
守っているネル。
ある日、盗み人とは違う人たちが来て・・・
<まてんろう>
街の真ん中にある大きなマンションにおばあさんと暮らしている猫のまてんろう。
ある日、倒れたおばあさんを救うため助けを求めて外に出て・・・
<火山の町>
お父さんが火山の研究のため外国にいるというノリオちゃんがお母さんと
引っ越し来た。ノリオちゃんが万華鏡をのぞかせてくれて、そこはお父さんの
国の入口なんだよと教えてくれる。
<昨日のわたし>
明日が嫌いなわたし。
夏休み、公園で出会った女の子も明日が嫌いで昨日から来たという。
会うたびに小さくなっている女の子。
<夏の魔女>
夏の間は毎年、おばあさんおところで過ごす。
ラズベリーのジャムを沢山作って、近所の人たちと物々交換。
変わり者だと言われているけれど、わたしはおばあさんが好き。
<最後のあいさつ>
みどりのポストの番人をしてきたけれど、ここを去ることになった番人が
入れた手紙。
切ないお別れの物語の方が多かったかな?
そんななか、猫が主役の<まてんろう>は、なんだかいい感じ。
おばあさんが倒れたときは、どうなることかと思ったけれど
まてんろうの勇気が新たな出会いも生まれて最後はハッピーエンド♪
表紙の絵の黒猫がまてんろうの彼女かな?
稲葉さんの書く本は、素敵だな。
亡くなっているから新刊は読めないけど、過去の作品をまた
探して読もう!
★★★★
発行年月:2016年4月
・札幌で就職した息子がわずか一年で帰郷。理髪店を継ぐと言い出した。
・幼馴染の老父が突然倒れた。残された奥さんは大丈夫?
・異国の花嫁がやって来た。町民大歓迎。だが新郎はお披露目を避け続ける。なぜ?
・町に久々のスナック新規開店。妖艶なママにオヤジ連中、そわそわ。
・映画のロケ地になり、全町民大興奮。だけどだんだん町の雰囲気が……。
・地元出身の若者が全国指名手配犯に! まさか、あのいい子が……。
──心配性の理髪店主人が住む過疎の町で起こる騒動を描いた極上の一冊。
(光文社HPより)
章はわかれて短編連作の形だったけど、登場する人物たちが共通なので
1つの物語として読めた。
向田理髪店の店主や、ガソリンスタンドの店主が自分と同じ世代なので
親近感もあって、過疎化の進む町に戻って来て店を継ぐという息子たちに
親が感じる喜びと戸惑いの気持ちもよく理解できた。
町の人たちの情報伝達力は凄い。
どこかの誰かが何をしたとかすぐ伝わって、煩わしさも時にはあるだろうけど
困ったことになったときは、皆がすぐ駆けつけるのはいいなぁ~。
中国からのお嫁さんを貰った者には、歓迎会を開いてお嫁さんが皆から
歓迎されているんだということを伝えたり、
町出身の若者が東京で詐欺事件を起こしたことを知れば、戻って来た若者を
諭して警察に連れて行く。
でも戻って来たら迎え入れるという優しい言葉は忘れない。
向田理髪店の息子・和昌は素晴らしいな~。
町が実際、この後どう変化するのか、和昌が理髪店店主になった話も
あればいいな。
実状は厳しい過疎化の町の話だけど、なんだか活気があるし
この先そんなに暗くないかな?と期待感大で終わるのもいい。
★★★★★
発行年月:2016年10月
直木賞受賞第一作の最新長編小説。
明日への元気がわいてくる人生応援小説!
農業なんてかっこ悪い。と思っていたはずだった。
イチゴ農家を継げと迫る母親。猛反対の妻。
志半ばのデザイナーの仕事はどうする!?
夢を諦めるか。実家を捨てるか。
恵介36歳、いま、人生の岐路に立つ!
(毎日新聞出版HPより)
直木賞の「海の見える理髪店」も良かったけれど
こちらの方が明るくて読んでいて楽しかった♪
東京でグラフックデザイナーとして独立して2年の望月惠介。
やや仕事が減って来たのを悩んでいたら・・・静岡で農業を営む父親が
脳梗塞で倒れたという報せ。
父親は一命は取り留め、リハビリでなんとか杖歩行が可能になり
言葉も不自由だけど会話出来るまでに回復し、退院。
父親の留守中、母親ひとりに農作業をさせられず、手伝うことに。
父親が育てた苺の美味しさに感動し、これを台無しにするわけには
いけないと。
最初は、義務感から渋々やっていた仕事に段々、のめり込んでいく。
恵介の姉たちとの関係もいい。
皆、言いたいことを言いながらも仲良し家族。
東京でパーツモデルの仕事をする妻の美月と5歳の息子・銀河とは
離れ離れの生活になってしまうけれど、最後は家族だから一緒にと
美月が意志表示してめでたしめでたし。
苺を育てる農家さんの苦労もよくわかり、楽しい物語でした(^^)
ああ、早く章姫と紅ほっぺが食べたいな~。
★★★★
発行年月:2016年8月
2014年に逝去した著者の三回忌に際し、死の直前に発表された最後の遺作を単行本化!
余命短い老女優の、人生の幕引きの日々を描いた表題作は、死と向き合う著者の息遣いが聞こえる感動作。
(河出書房新社HPより)
3つの話の前2つは、「死」と向き合う人の話で、
どういう思いでこれを書かれたのかなぁ~と思う。
どの話も素晴らしかった!
表題作の<月兎耳の家>は、劇団女優だった叔母(82歳)が怪我で
見の周りのことを手伝うために同居することになった、わたし。
叔母と最後に会ったのは、中学の頃、祖母の葬式。
そのときの叔母は綺麗だった。
そんな叔母と暮らしながら、叔母の過去の話を聞く。
叔母が深く関わった葵という5つ年上の女性とのこと。
表紙の絵は、この中に出てくる着物を連想させるもの。
静かに過去を語る叔母。
姪に話すことで、自分の生きた証を確かめるようだった。
次ぎの<風切橋奇譚>が一番すき。
叔父から、別荘に住まわせていた女性が亡くなり空き家になっているから
そこに住んでくれないか?と言われた美弥。
和歌山の山中にある別荘の奥には森でそこから行き来する橋がある。
あの世からこちらに来る者が渡る橋。
家を訪ねて来た者には白湯をふるまい話を聞く。
自分が果たす役割を心得ている美弥。
そして、次にそれを引き継ぐ者はやってくる。
このふたつは、ちょっと似ているかんじ。
ちょっと不思議で怪しいけれど静かに受け入れられる心地よさもある。
最後の<東京・アンモナイト>は
バーで知り合った男女の話。
男性は名前をイクミと名乗るけれど、それは10歳で溺死した弟の名前。
母が亡くなったあと、すぐに別の女性を家に入れた父に反発して
家から出たイクミ。
なんとなく暗い陰のある二人が最後は一緒に明るい方に進んで行きそうな
描写で終わるこの話。
これを最後に持ってきたのはいい!
稲葉さんの新作はもう読めないけれど、過去の作品はまだまだ未読な
ものあるので、少しずつ読んで行こうと思う。
★★★★★
記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;