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読んだ本の感想あれこれ。
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発行年月:2021年7月


かつて中学1年の時に僕は、酒を飲む度に荒れる父親に手を焼き、遂に斧で殴りかかって殺そうとしたことがある──心に傷を負ったまま家族とも離れ、悪夢のような記憶とともに生きていく史也。荒んだ生活の中で、看護師の千尋との出会いから、徐々に自身の過去に向き合おうとする──これは「決別」と「再生」の物語。
父へ、母へ、
この憎しみが消える日は来るのだろうか。
酒を飲んでは暴れ、家族に暴力をふるう父に対して僕には明確な殺意がある。
十三歳で刑罰に問われないことは知ってはいるが、僕が父を殺せば、もう母とも妹とも暮らすことはできないだろう。それがわかっていても僕は父を殺そうとしている。自分のなかに黒い炎を噴き出す龍が住んでいる。いつそれが自分のなかから生まれたのかわからない。龍は僕に命令した。今だ、と。 (本文より)


                 (朝日新聞出版HPより)



主人公の横沢史也(28歳)の物語。
13歳のとき、暴力をふるう父親を殺そうとした過去をずっと引きずり
生きてきた。
13歳から両親と妹の元を離れ母親の姉の元で暮らし大学進学を機に東京へ。


暴力をふるう父親、それに黙って耐える母親・・・どちらも嫌いになる史也の
気持ちはよくわかる。
残された妹・千尋のことが心配だったけれど、大人になった千尋の話を
聞けば、前のような暴力が日常だった生活がなくなったのは良かった。


そして、中原梓(26歳)との出会いが史也にとってはラッキーだったと
思う。
それは梓にとっても同様で、二人が出会えたことは本当に良かった!


親を恨んでいた史也と梓。
一生、赦せなくて当然のことを二人は親から受けたんだから。
それでも、二人はそんな親に会う。


史也の父親は、どんな気持ちだったんだろう。
詫びたい気持ちがあったと信じたい。
それでもなお史也は赦せない気持ちでいることも当然。

史也と梓、ふたりがこれからは家族になって幸せになってほしい。
親になることを恐れている二人だけど、二人ならきっと大丈夫だと思う。


重たい話だったけれど、読んでよかった。


気になったには表題の「朔が満ちる」という意味。
調べたら
「朔」は、月が満ち欠けして新月の状態に戻ることに由来した感じだとか。

でもそれが満ちるって、どういう意図で表題にしたんだろうか??



                     ★★★★


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発行年月:2021年10月


この者は、神か、悪魔か――。
気鋭の著者が、医療の在り方、命の意味を問う感動巨編。
大学病院で、手術支援ロボット「ミカエル」を推進する心臓外科医・西條。そこへ、ドイツ帰りの天才医師・真木が現れ、西條の目の前で「ミカエル」を用いない手術を、とてつもない速さで完遂する。
あるとき、難病の少年の治療方針をめぐって、二人は対立。
「ミカエル」を用いた最先端医療か、従来の術式による開胸手術か。
そんな中、西條を慕っていた若手医師が、自らの命を絶った。
大学病院の闇を暴こうとする記者は、「ミカエルは人を救う天使じゃない。偽物だ」と西條に迫る。
天才心臓外科医の正義と葛藤を描く

                 (文藝春秋HPより)



今回は、医療の現場。
それも心臓外科医の話。

法曹界の話もいつも凄い取材力だなと感心するけれど、これも凄いな。

西條康巳(45歳)と真木一義(44歳)。

最初は対立するのだけど、二人が目指すものは同じ。
生い立ちにも共通するところがあり、二人とも強い信念をもって相当の努力を
して今の立場にいるということ。


12歳の心臓に生まれながらに欠陥を持つ少年・白石航の手術に向き合う二人。
お互いの主張を認めないが、患者とその家族の意思を尊重し、最善策で臨む
手術の場面は、感動的だった。
少年がこの後、どんなふうに成長するのかも知りたくなる。


ちょっと気になったのは、西條の妻との関係。
妻の母親とのこともちょっとよくわからず、モヤモヤ。
心理カウンセラーの妻なら、もう少し西條の気持ちにも寄るものが
あってよかったのでは???なんて。


最後の場面のその後が気になる。

再び医療の最先端で活躍してほしい。
元気になった少年との再会も。


今回も読み応え十分でした!!



                       ★★★★



発行年月:2021年8月


家族三人で暮らしたい、ただそれだけの望みを叶えるのがこんなに難しいなんてシングルマザーの保育士ミユキさんが心ひかれたのは、八歳年下の自動車整備士クマさん。娘のマヤも面倒見のいいクマさんに懐いて、すったもんだはありつつも、穏やかな日々が続くはずだったのに......。出会って、好きになって、ずっと一緒にいたいと願う。そんな小さな幸せが突然奪われたのは、クマさんがスリランカ出身の外国人だったから。〈ハラハラしてます〉〈ラストがよかった〉〈知らないって恐ろしい〉読売新聞連載中から反響続々中島京子の長編小説最新刊

                       (中央公論新社HPより)



少し前にニュースにもなった、名古屋の入管局に長期収容されていた
スリランカ人の女性が亡くなった話。
亡くなる前に日本人の知人が訪ね「具合がだいぶ悪そう」と職員に病院に
受診させてもらえないですか?いうが、健康状態はちゃんと管理しているからと
取り合ってもらえず、そうこうしている間に亡くなってしまったと。
亡くなった女性は、ちゃんとした仕事もしていたし、日本人だったら
罪の問われるような生活を何もしていなかったのに・・・。


入国した外国人に対する決まり事は、今回、この小説を読んで色々知った。

直接は自分に関係ないことだけど、こういうことは、皆が知っていた方がいい。
そしたら、知らずにいる外国人にアドバイスできるかもしれないし。


読んでいて、日本人として、なんだかショックだった。
外国人に対してあまりにも冷たい。
でも入管の職員もきまりを破った外国人相手には、そうするしかないのかな?
でもその人にとっては大事な在留資格を職員の裁量で延長できるか否かを
決めているのはちょっと疑問。

不服として、今回みたいに裁判まで持って行ける人なんて、少ないだろうし。

もう少し、法律で外国人を守ることも考えて欲しい!
クマさんみたいな人やその周りの人たちが辛い思いをすることが減るといいな。




                        ★★★★★



発行年月:2021年11月


「年をとったおまえを見たかった。見られないとわかると残念だな」(「哀しみがたまる場所」)
作家夫婦は病と死に向きあい、どのように過ごしたのか。残された著者は過去の記憶の不意うちに苦しみ、その後を生き抜く。心の底から生きることを励ます喪失エッセイの傑作、52編。
◯本文より
あと何日生きられるんだろう、と夫がふいに沈黙を破って言った。/「……もう手だてがなくなっちゃったな」/私は黙っていた。黙ったまま、目をふせて、湯気のたつカップラーメンをすすり続けた。/この人はもうじき死ぬんだ、もう助からないんだ、と思うと、気が狂いそうだった。(「あの日のカップラーメン」)
余命を意識し始めた夫は、毎日、惜しむように外の風景を眺め、愛でていた。野鳥の鳴き声に耳をすませ、庭に咲く季節の山野草をスマートフォンのカメラで撮影し続けた。/彼は言った。こういうものとの別れが、一番つらい、と。(「バーチャルな死、現実の死」)
 たかがパンツのゴム一本、どうしてすぐにつけ替えてやれなかったのだろう、と思う。どれほど煩わしくても、どんな忙しい時でも、三十分もあればできたはずだった。/家族や伴侶を失った世界中の誰もが、様々な小さなことで、例外なく悔やんでいる。同様に私も悔やむ。(「悔やむ」)
昨年の年明け、衰弱が始まった夫を前にした主治医から「残念ですが」と言われた。「桜の花の咲くころまで、でしょう」と。/以来、私は桜の花が嫌いになった。見るのが怖かった。(「桜の咲くころまで」)
元気だったころ、派手な喧嘩を繰り返した。別れよう、と本気で口にしたことは数知れない。でも別れなかった。たぶん、互いに別れられなかったのだ。/夫婦愛、相性の善し悪し、といったこととは無関係である。私たちは互いが互いの「かたわれ」だった。(「かたわれ」)
●近年、稀にみる圧倒的共感を得た朝日新聞連載の書籍化

                   (朝日新聞出版HPより)



ご主人の作家・藤田宜永さんは2020年1月30日に肺がんのため亡くなられた。
ニュースを知ったときは、びっくりした覚え。
まだ69歳だったんですね。


夫である藤田氏との出会いから結婚まで、結婚後の二人の生活の様子などが
窺えて嬉しかったけれど、そこには今はもう居ないという寂しさも
感じられた。
本当に良い夫婦関係だったんだなぁ~。


東京から長野の森のなかに居を移して自然を感じながらの日々の暮らしは
静かで居なくなった人のことを思い出しながらは、寂しく心細い
だろうな・・・。
特にコロナ禍でもあり、人にも容易に会えないし。

それでも執筆中に作品を完成させたのは、凄い!

最新刊「神よ憐みたまえ」も楽しみ。


美しい小池さんの言葉でいっぱいの1冊だった!
表紙の絵も凄くステキ!

この本を読んで同じ心境の人はきっと癒されると思う。




                         ★★★★★


発行年月:2021年5月


愛ゆえに、人は。
『流浪の月』『滅びの前のシャングリラ』本屋大賞受賞&二年連続ノミネートの著者が描く、家族の物語。
すみれ荘のその後を描く「表面張力」を収録した完全版。
下宿すみれ荘の管理人を務める一悟は、気心知れた入居者たちと慎ましやかな日々を送っていた。そこに、芥と名乗る小説家の男が引っ越してくる。彼は幼いころに生き別れた弟のようだが、なぜか正体を明かさない。真っ直ぐで言葉を飾らない芥と時を過ごすうち、周囲の人々の秘密と思わぬ一面が露わになっていく。
愛は毒か、それとも救いか。本屋大賞受賞作家が紡ぐ家族の物語。

                    (講談社(文庫)HPより)



面白かった。
内容は結構、重めだったりするけれど、主人公の和久井一悟(33歳)の
人柄が、ことを大げさにしない姿勢が物語をいい意味で緩くしている。


和久井一悟は、妻を事故で亡くし、当時2歳だった娘は妻の両親が育てることに。
一悟は幼い時から病弱で、社会人の経験なし。
母親が営む下宿屋「すみれ荘」の大家を引き継ぎ、下宿人たちと暮らしていた。

そこに作家の芥一二三も加わることになり、それぞれの下宿人
・玉城美寿々(26歳)・・・子ども用品を扱う店に勤務。PMSで苦しむ
・上郷青子(36歳)・・・フラワーショップ店長、10代の頃から下宿。
・平光隼人(27歳)・・・TVの番組制作会社勤務


一見、和気あいあいとした人間関係のなかに、胸に秘めた闇を明かしていくので
「え?うそ?」と次第にザワザワした気持ちになっていく。


特に青子の告白は、ビックリ!!
本人も悪いことをしている自覚があるのに、やめられないというのが怖い。

でも、それを知った一悟の行動は、最初は、なんで?赦すの?とビックリだったが
よくよく考えたら、一悟の考え方も理解できるものであるし
まあ、それもいいのかな?と思えた。


すみれ荘のその後の話「表面張力」もよかった。
一悟と芥の関係は、ますます深まりそう。
別れて住んでいた娘の一咲ちゃんとも同じように関係を深めていけたら
いいなと思える終わり方にホッとした。


愛し方を間違えた人たち(犯罪だよ、それは!!)の物語。


                     ★★★★
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