ひたすらに"母"をさすらう女の物語…。
母のない子持ちやもめの家庭を転々と渡り歩く広美。
短いときは数か月、長くとも数年、トラック運転手や遠洋漁業、
家を長く空ける父子家庭の母親役をして、
家庭が軌道にのると人知れず去っていく。
それは、母性が有り余っているのか、母性がぶっ壊れているのか、
子供にとっては女神でもあり、突然姿を消す残酷な悪魔でもある。
すばる文学賞受賞作家が挑む、初の長編エンターテインメント!
(光文社HPより)
なかなか面白い物語でした!
各地を転々としながら、子持ちの男やもめの家に自然な形で転がり込む広美。
食堂の店員、飲み屋のママなど職業も変えながら、そこで知り合った男性の家に自然と馴染んでいく。
どの男性も妻に先立たれたり、出奔したりと子どもを抱えた生活に、やや疲れが出ている。
そんなとき、自分のためというより、子どもの為に何かと世話を焼いてくれる女性の出現は嬉しい。
広美は、子どもにもすぐに懐かれ、母親が恋しい子どもには、なくてはならない存在になっていく。
でも、ある日、突然、姿を消す。
そしてまた違う土地で別の父子に遭遇し・・・・・の繰り返し。
そんな暮らしを続ける広美の正体は?
物語は、そんな広美と幼い頃、一緒に暮らした青年・祐理が再び広美に出会った話を挟みながら進む。
祐理のほかにも、広美に幼い時、面倒を見てもらった若者たち、美奈子と秋夫も現れ、みなで広美に会いにいく。
誰が尋ねて来ても、大げさに歓迎することはないけれど、食事を一緒にしたり、普通に招き入れてくれる広美。
不思議な人。
ラストは、広美は、再び青年たちの前から姿を消し、最初の話の土地に現れ、そこで共に暮らした男性と再会する。
そのとき、世話をした幼かった子どもたちは成人し、家庭を持ち独立したらしい。
ずっと気になっていた広美の過去も少しわかった。
辛い経験があったんだなぁ~と思うと、なんだか切なくなって、もう転々とせずに
一箇所で幸せに暮らして欲しいなぁ~なんて思った。
表題のウエスタンって、なんだろ?と考えたけど
西部劇のさすらいのガンマンみたいなかんじかな?
目的が達成されたら、去っていくかんじのイメ-ジ?
不思議な物語だけど、何となくじ~んとした。
★★★★
ベストセラー『氷の華』『目線』の著者が描く、慟哭のミステリー
高級住宅地で起きたひき逃げ事件、そして旅行先で起きた失踪事件。全く別の場所と時間で起きた2つの事件のつながりが、二人の刑事によって明かされる。 なぜ、母親想いの人間が、人を殺めたのかーー。その犯罪の裏に隠された悲痛な犯人の動機とは?
(幻冬舎・・・BOOKデ-タベ-スより)
天野さんの書く話は、リアルにその登場人物の像が頭に浮かんでくる。
そして、今回も面白かった!
これもドラマになったら面白いだろうなぁ~。
表題が「彷徨う人」なので、最初から行方不明になる女性・片岡葉子がみつかるかどうか?の話なのかと安易に思ってしまった(^^ゞ
そんな単純な話ではも勿論なくて・・・
どんどん人が登場して、次々と分かってくるその人たちの関係。
メモを取りながら、自分なりの相関図を作りながら読みました。
最初に行方不明になった片岡葉子。
彼女は、ほか3人と旅行の帰りに足取りがわからなくなる。
心配した葉子の姉・淳子が警察に捜索願いを提出。
淳子の夫・宗太は、あまり心配していない様子で、その態度に腹が立ち夫婦は決裂。
宗太には認知症のため入院している母・幸子がいて定期的に様子を見に行っている。
幸子は元国語教師で幼い頃に父が亡くなり、母子で暮らしていた為、母親に対する愛情が深い。
物語には、葉子の失踪事件とともにもうひとつの事件が出てくる。
葉子と一緒に旅行した一人・田嶋千里の夫が半年前に轢き逃げされ死亡した事件。
葉子の失踪をやはり同じく一緒に旅行した日野美香子が追う。
そして轢き逃げ事件は、他殺による隠蔽工作だったのでは?と真相を追う刑事・清水が追う。
そして二つの事件は実は繋がっていた!!
ここまで持ってくる辻褄合わせがよく考えられている。
言われてみれば、なるほどそういうことね・・・と思うのだけど。
でも犯人の最期は切なかったな・・・・。
犯人の母親は、どんな気持ちだったんだろう?
表題の彷徨う人は、最初は、失踪した葉子のこと?と思ったけれど
この事件に関わった人たち、みなを指すような気もする。
上手い表題だと思う。
★★★★
想いを貫いた江戸の人々の生きざま。<ハヤカワ・ミステルワ-ルド>からの入魂の歴史小説。
江戸参府のオランダ使節団が、自分たちの宿「長崎屋」に泊まるのを、るんと美鶴は誇りにしていた。文政五年、二人は碧眼の若者、丈吉と出逢い、両国の血をひき彼と交流を深めてゆく。まもなく、病人のために秘薬を探していたるんは、薬の納入先を聞きつけた丈吉と回船問屋を訪れる。が、店に赴いた彼らが発見したのは男の死体だった。さらに、数年後シ-ボルトをめぐる大事件が起こり、姉妹はその渦中に。
(早川書房HPより)
少し前に、朝井まてかさんの「先生のお庭番」を読んでいたので、その同じ時代の話ということで
興味深く最初から最後まで読みました。
オランダからの商館長が代々、泊まる「長崎屋」という宿屋。
そこの姉妹・るんと美鶴。
器量よしの二人は世間でも評判。
そして、成長した二人の前に現れたのは、碧い眼の若者・丈吉と親しくなる。
丈吉は先のオランダ商館長・ヘンドリック・ドゥ-フと日本人の母(長崎の遊女だった)との子。
シ-ボルトにも日本人の女性との間に娘・イネがいるのを知っていますが、
この時代、そういう子どもは他にも居たんですね~。
丈吉は、その後、不幸な目に遭うのが切なかったなぁ~。
史実を交えての物語なので、教科書で見た名前が結構出てきます。
怪しい武士が間宮林蔵だったり・・・・。
シ-ボルトが来日し、やがて起きたシ-ボルト事件に、るんや美鶴の愛する人たちも巻き込まれていきます。
シ-ボルト事件でそれに関与した者の厳しい取調べがあったのは、「先生のお庭番」やほかのもので読んで知っていましたが、こうして物語のなかの人物の身近な人が苦しめられるのは、辛かった。
多くの人が犠牲になったシ-ボルト事件は暗い事件だけれど、たシ-ボルトは
日本で過ごした貴重な体験を大事に思い、自分を拘束することになった事件の密告者(間宮林蔵)の功績を称え世界に林蔵の名を広げたことは嬉しい。
密告者としての汚名がついた林蔵も格好よかった。
皆、それぞれ自分の信じる思いを貫いただけ。
シ-ボルトの娘・イネのその後のことがちょっと興味あるな・・・。
調べてみようかな?
どんどん、新刊を出される葉室さんですが、少し前の作品も良いです(^^)
廃墟でおこるステキな奇跡
人生に疲れたら、うら寂しい場所に行ってみよう。何かが背中を押してくれる。閉じこもりOL、家出少年、行きづまった事業主――彼ら彼女らの今を劇的に変化させる6つの物語。
「誰かいるのか」
返事はない。見間違いや気のせいではなかった。確かに誰かがいた。スプレーの落書きをした連中の仲間か。それとも、最近増えているという廃墟巡りを趣味にしている物好きか。
「いるんだろう?」
背後にも注意しながら、一歩二歩と近づく。鉄骨階段の陰に誰かがしゃがみ込んでいる。手すり越しに覗くと、お下げ髪がふたつ、見えた。その手許にきらりと光る棒がある。魔法の杖みたいだ、と思う。ディズニーアニメのティンカー・ベルがちょうどあんな棒を持っていたっけ……。――<表題作より>
(講談社HPより)
6つの短編集。
「廃工場のティンカ-ベル」
廃工場に居た19歳の風俗嬢。
彼女はある揉め事に巻き込まれそれにより人を殺めてしまったと思い込んでいた。
たまたまそ仕事でそこを訪れた一級建築士の片平がその誤解を解いてあげる。
「廃線跡と眠る猫」
13年前に可愛がっていた半ノラの猫・フタバ。
フタバが好んでよく居た線路は今は廃線になっている。
そこに行方が分からなくなった日を命日に決めてお供えものをする美野里。
偶然にも職場でお人よしで有名な男性・野島からフタバのその後を聞く。
「廃校ラビリンス」
中学生の拓人は今は廃校になった校舎に忍び込み、警備員のヤマダに見つかる。
ヤマダは拓人の通っていた学校の卒業生だった。
「廃園に薔薇の花咲く」
今は廃園になった元遊園地。
そこに入る中学生の美緒と祥。
祥は家庭問題で悩んでいた。
「廃村の放課後」
以前住んでいた廃村となった村を訪れる。
妻となる人とその息子とともに・・・。
「廃道同窓会」
今は45歳の元山岳部だった3人は、仲間の遺灰を山頂から撒くため登山する。
元部長だった雅恵は術後のため、段取りだけを整えてくれた。
そして登山中、一人が怪我のためリタイア。
残る二人は共に家庭内に悩みを抱えていた。
それぞれの話のなかの人物たちは、何らかのことを思い悩んでいる状況。
そんな人たちが訪れた今は使われて居ない場所で、新しい気持ちを思い起こす話。
どの話も最後は、明るい気持ちで前を向いて頑張ろうというかんじなので
読後感が良かった!
猫好きとしては二番目の「廃線跡に眠る猫」がジ~ンときた。
姿を消したままの猫の最期が辛いものじゃなかったとわかって良かった。
職場でお人好しとしてしか見ていなかった野島の優しさが美野里にも伝わって
今後の、この二人の関係は・・・・?なんて想像もすると楽しかった。
若き無名のボクサーたちが鍛え上げた肉体と拳で掴み取るのは、
何にも揺るがないタフさと一瞬の輝き。
男たちの成長ぶりを爽やかに描き出した時代を超えた青春小説の傑作!
角田ワールドは新たな見果てぬ地平へ!
強いから勝つんじゃない、勝つから強いんだ
(日本経済新聞社出版HPより)
500頁近い長編ですが、最初から最後まで一気に読ませてくれました。
さすが、角田さん!!拍手です!!
ま、正直なところ、試合シ-ンはちょっとだけ飛ばしましたが・・・^^;
最初に登場したのは、出版社勤務の25歳・那波田空也。
文芸志望なのに、異動の先は、隔月刊のボクシング雑誌編集部。
空也の担当する雑誌は「ザ・拳」。
そして訪れたボクシングジム。
練習風景などを見学させて貰って・・・・と軽い気持ちで出向いたけれど、自らもジムの練習生として
通いながら記事を書くことになる。
ジムのなかの花形選手・立花望(リング名:タイガ-立花)を主に取材対象にして、交流を深める。
同い年なので練習後は、話も弾み、楽しそう。
ほかのジム通いのメンバ-、中神や坂本も皆、好青年というかんじなので
読みながら、応援したくなる。
しかし、立花は、リング上では別人に変わる。
悪役ぶりを徹底して披露。
試合中は、相手を挑発する言動。
立花に対するヤジも多い。
本当の立花を知っているから、嫌いにならないで応援できるけど、普通なら嫌われるキャラを
あえて作って戦う。
そういうことってあるんだな・・・・・・。
ボクシングとかあまり知らないからわからなかったけど、そういう演出っぽいこともアリなんだと
知って頭に浮かんだのは,亀田興毅選手。
立花の試合中とリンクを降りた普段の生活で見せる姿のギャップが面白かった。
亀田興毅選手もなんだか同じような気がする。
物語のなかで、立花たちが試合をこなして、勝ったり負けたりしながらも成長していく様子が楽しかった。
空也との関係も取材する人、される人以上の信頼関係みたいなものが出来て行って
ずっと付き合っていける親友のような仲になっていったのも良かった。
新聞掲載小説なので、試合の描写は実に細かい。
なので、途中、先にも書いたけど飛ばし読みしてしまったけど、ボクシングがわかる人には
その辺も楽しめたと思う。
角田さん自身もジムに通って、空也みたいに実際にボクシング体験とかしたのかなぁ~?
物語の最後は、少し年月が経ち、空也や立花たちのその後の様子が書かれていた。
みんなそれぞれ前より立派になっていて嬉しかった♪
楽しい物語でした!
記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;