彼女の本当の名前とは何か?圧巻の物語世界
ふたつの小説が、フォークナーの「野性の棕櫚」のように、交互に語られていく。
第一の小説「彼女の本当の名前」は、崩壊してしまったあとの、近未来の世界で生き残ったふたりの十代の男女が主人公。少年の名前はオサム、少女は「ギギ」と少年から呼ばれている。彼女は言葉を話すことができないが、その分、感覚が優れている。ふたりは、「アトム」と呼ばれる煙草などの稀少品をほかの食べ物と交換するために、住処にしていたビルの廃墟から、「耕す人」が棲息する冬の山のなかへと分け入っていく。結局、「耕す人」は見つからず、ふたりは遭難するも、猟師の老人に命を助けられる。狩りに出て、食料を自足する生活。しかし、ある日、老人が熊との格闘の末、命を落とす。ふたりはさらに生き延びるために、小集落を訪れるが、ある理由から、都市部へ戻る決意をするが・・・。
第二の小説「愛についてなお語るべきこと」は、旅先で消息を絶った息子・理を捜すためにタイの地を訪れた小説家・辻村に、一夜を共にした現地の謎の美女、そして彼女の同伴者の日本人カメラマンが絡み、ロード・ノベルのようにして話が進んでいく。しかし、ある日、原因不明のウィルスの猛威により、事態は急転する。
第一の小説は、第二の小説で描かれる世界が「Xデー」を迎えたあとの様子を描いているようにも読める。また、第二の小説で登場する小説家が、その後に描いた小説内小説のようなものとしても読むことができるなど、互いにリンクしています。
(小学館HPより)
全く異なる二つの話が、少しずつリンクしていることに気づく。
1つ目の話は近未来の荒廃した世界を二人で行き抜く少年とギギの話。
少年の名前が「オサム」年齢は15歳くらい。
タイに行ったきり、音信不通の息子「理」を探してタイを訪れた小説家・辻村の話。
リンクしているけれど・・・・「オサム」と「理」は、同一人物ではないでしょう。
年齢からして・・・・。
それでも、少年が体験することと辻村が体験していくことは、どこか似ている。
出会っていく人々も。
表題は、「愛について、なお語るべきこと」だけれど、ストレ-トな恋愛小説ではなく
もっと大きな生きていくことに直結していくような「愛」について語られていたような気がした。
著者の哲学的な考えに基づいた物語のようにも感じた。
現代社会のなかに起きたテロ事件や新型インフルエンザの流行、原発事故などを想像させるようなものも出てきて、今の時代のあとが、ここでの少年とギギの暮らす世界を描いているのか?と考えるとちょっと怖くもなった。
やや難解だけれど、自分なりの解釈をしながら楽しめた作品です。
★★★★
12年ぶり、待望の書き下ろし長編小説。親や他人とは会話ができないけれど、小鳥のさえずりはよく理解する兄、そして彼の言葉をただ一人世の中でわかるのは弟だけだ。小鳥たちは兄弟の前で、競って歌を披露し、息継ぎを惜しむくらいに、一所懸命歌った。兄はあらゆる医療的な試みにもかかわらず、人間の言葉を話せない。青空薬局で棒つきキャンディーを買って、その包み紙で小鳥ブローチをつくって過ごす。
やがて両親は死に、兄は幼稚園の鳥小屋を見学しながら、そのさえずりを聴く。弟は働きながら、夜はラジオに耳を傾ける。静かで、温かな二人の生活が続いた。小さな、ひたむきな幸せ……。そして時は過ぎゆき、兄は亡くなり、弟は図書館司書との淡い恋、鈴虫を小箱に入れて持ち歩く老人、文鳥の耳飾りの少女と出会いながら、「小鳥の小父さん」になってゆく。世の片隅で、小鳥たちの声だけに耳を澄ます兄弟のつつしみ深い一生が、やさしくせつない会心作
(朝日新聞社出版HPより)
小鳥を愛する小父さんの物語。
物語の冒頭、小父さんが亡くなっている場面から始まる。
おじさんは鳥かごを抱え、そのなかには一羽のメジロがいた。
そして小父さんの物語が始まる。
小父さんの7歳年上のお兄さんとの暮らしの様子。
小父さんに小鳥を引き合わせたのはお兄さんだったんですね。
お兄さんは独自の言葉を話すため周囲とのコミュニケ-ションは上手くとれない。
理解できるのは小父さんと小鳥だけ。
二人であちこちを旅行する話も素敵だった。
そしてお兄さんが52歳で亡くなったあとは小父さんの一人暮らし。
綺麗なバラ園を持つゲストハウスの管理人として働きながら、休みの日は図書館に通い、毎日、近くの幼稚園の小鳥の小屋の掃除を続ける。
園児たちからは「小鳥のおじさん」と呼ばれ、周囲の人たちもおじさんを同じように呼ぶ。
静かだけれど、ささやかな交流があり、そこに幸せも感じていた小父さんなのに
あるとき、身近に幼児連れ去り事件が起き、小父さんの暮らしも様変わりしてしまったのが
辛かった。
ナンにでも警戒しなきゃならない時代になったから仕方ないのかなぁ~?
それでも傷ついたメジロを介抱しながら、過ごした時間が小父さんの最期を少し明るいものに
していったのだと知ってホッとした。
さすが、小川さんの文章はスラスラと気持ちよく最後の一字まで読めました。
★★★★★
中学校最後の駅伝だから、絶対に負けられない。襷を繋いで、ゴールまであと少し!
走るのは好きか? そう聞かれたら答えはノーだ。でも、駅伝は好きか? そう聞かれると、答えはイエスになる――。応援の声に背中を押され、力を振りしぼった。あと少し、もう少しみんなと走りたいから。寄せ集めのメンバーと頼りない先生のもとで、駅伝にのぞむ中学生たちの最後の熱い夏を描く、心洗われる清々しい青春小説。
(新潮社HPより)
中学校駅伝大会に出場するために結成された6人。
陸上部以外でも速く走れる者がいれば、交渉してメンバ-に。
陸上部部長.・3年生の桝田は、2年生部員の俊介とともに、その交渉に当たる。
桝田は、いつも明るく部内をまとめる気配り上手。
だけど、最近はタイムが伸びず不調。
俊介はそんな桝田の走りに憧れ目標にしていた。
そしてこの駅伝チ-ムの唯一の2年生として桝田からも期待されている。
6人のうち、もう一人の陸上部員・設楽は、桝田から誘われて陸上部に入部していた。
小学生のときは、いじめられっこ。引っ込みじあんでいつも一人だったけれど、桝田は
設楽の小学校時代の走りを認めていて「一緒に陸上部に入ってくれたら嫌な思いはさせない」と言った。
物語は駅伝の1区から6区までを走る順番でそれぞれの駅伝大会に臨むまでの
エピソ-ドを綴っていくかたち。
1区・・・設楽
2区・・・大田
3区・・・ジロ-(仲田)
4区・・・渡部
5区・・・俊介
6区・・・桝田
2区の大田と4区の渡部は桝田と俊介が苦労してチ-ムに入れた二人。
大田はヤンキ-で茶髪。皆から恐れられている存在だけど、桝田は平気。
自分たちを助けると思って・・・と頼む。
そして渡部は、吹奏楽部でサックスを吹くちょっとインテリっぽい生徒。
桝田と健介が真剣に誘っても受け入れない。
けれど・・・・その後チ-ムに参加。
二人をチ-ムに入れるため、桝田と俊介は奮闘したけど、影響力を与えたのは
元美術部顧問で駅伝なんて何も知らない上原先生。
どうして女の自分が男子の駅伝チ-ムの顧問になったのか??と自分でも不思議がる天然っぽさ。
それから誘ったら、即チ-ムに入ってくれたバスケ部キャプテンのジロ-(仲田真二郎)。
お調子者でいつでもポジティブ。
個性派ぞろいのチ-ムだけれど、みんな本当はすごく良い子たち。
それぞれの胸のうちが明かされる話には、ジ~ンときた。
そして天然っぽい上原先生も生徒の見るべきところは、ちゃんと見ていて
押し付けがましくない優しさで見守っている。
襷を渡す瞬間のそれぞれの思いが最高!
駅伝の物語って面白いな。
素敵な物語でした!!
発行年月:2012年11月
少し臆病な女性たちに贈るラブストーリー
楓は冴えない中学校教師。
思いがけず料理上手の恋人を居候させることになり、
また学校では問題児を面倒みるハメに。
等身大のファンタジ
(文芸春秋HPより)
凄く不思議な状況でしたが、主人公の楓を応援したくなる物語。
楓は、中学で社会科を教えている。
熱血教師とはほど遠く、授業中の生徒たちの様子にも特に関心がない。
けれど、そんな教師だからこそ、救える生徒もいる。
自身の元教師でもあった野崎が同じ学校にいる。
楓のことを「教師に向いていないはずなのに・・・」と思いながらも野崎は
ちょっと問題がある生徒を楓と関わらせる。
卓球が物凄く上手いのに部内でもめ事を起こし居場所のない市井くん。
クラスの雰囲気を変えてしまう張本人の高井さん。
楓は野崎先生に頼まれて、生徒たちと面談するけれど、説教めいたことは一切言わない。
自分がなんとか変えてみせようという気合もない。
教師らしくないけれど、生徒にも一人の人として対等に向き合う姿勢が、好感が持てる。
市井くんも高井さんも楓と接することで、少し心の持ち方が変わる。
こういう対応が自然に出来る人っていいな。
教師としては、らしくないけれど、結果的に生徒の気持ちを変えることが出来るのは素晴らしい。
こういう素質みたいなものを持った人が教師には本当はふさわしいんじゃないかな?
なんて思ってしまった。
楓の私生活もユニーク。
恋人は何者でしょ?
突然消えて、ふいにまた現れるって・・・・。
和歌教室の講師・田辺先生とも恋人だった時がある?
不思議なことがあれこれあったけど、ゆったりした温かいかんじの物語。
でも楓の境遇を考えるとちょっと切なくもある。
楓がこの先、幸せに誰かと暮らしてくれたらいいんだけどなぁ~。
★★★★★
あなた、ブルーマーダーを知ってる?
この街を牛耳っている、怪物のことよ。
姫川玲子。
常に彼女とともに捜査にあたっていた菊田和男。
『インビジブルレイン』で玲子とコンビを組んだベテラン刑事・下井。
そして、悪徳脱法刑事・ガンテツ。
謎めいた連続殺人事件。殺意は、刑事たちにも牙をむきはじめる。
超人気シリーズ、緊迫の新展開!
(光文社HPより)
姫川玲子シリ-ズと言えば・・・・玲子と菊田の恋の行方は?と
凄惨な事件よりも正直、そちらが気になる・・・笑
今回も犯人の行う殺人場面は、惨い。
でも、その相手は堅気な人ではなく闇で動く人たちなので、描写は惨いけれど、さほど嫌なかんじはない。
そして気になった、菊田と姫川の関係は・・・・
え?菊田結婚したのぉ~!?
驚いたけれど、二人に結婚なんて俗な結びつきは要らないのかも。
お互いがかけがいのない存在と思っていることは確か。
それを今まではそれぞれが秘めていたけれど、認め合ったかんじ。
菊田の妻・梓は、複雑な心境に今後なりそうだな・・・。
玲子とコンビを組むガンテツは、前は嫌なかんじばかりが目立ったけれど
玲子のことをある意味、よ~く分かっている人かも。
二人の会話もテンポよくて面白いし・・・。
でも、やはりまた姫川班で仕事をする菊田の姿も読みたいなぁ~。
巻末の参考文献に
竹内結子が書いた『たけうちマルシェ 心に届くおいしいさしいれ102』とあった。
物語中で玲子が菊田に差し入れするマンゴ-プリンが、この中にあるんだろうな。
誉田さんの粋な遊び心でしょうね。・・・・^m^
★★★★
記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;