発行年月:2013年4月
友を陥れてまで、己は出世を望んだのか? 若き執政がゆく道は、栄達か、修羅か。
職務において冷徹非情、若くして執政の座に昇った桐谷主水。かつて派閥抗争で親友を裏切り、いまの地位を得たと囁かれている。三十半ばにして娶った妻・由布は、己の手で介錯した親友の娘だった。互いに愛情が芽生えはじめた頃、由布の弟・喬之助が仇討ちに現れる。友の死は己の咎か――。足元はにわかに崩れ、夫婦の安寧も破られていく。すべての糸口は十年前、主水と親友を別った、ある<事件>にあった。
著者史上、最上の哀切と感動が押し寄せる。
組織を生き抜く者たちへ――直木賞作家・葉室麟の新作! 峻烈な筆で描き出す、渾身の時代長編!!
(講談社HPより)
主人公は37歳の桐谷主水。
幼い頃から親友であった芳村綱四郎を介錯することになった後世河原騒動の真相を追う。
綱四郎はなぜ、切腹しなければならなかったのか?
罪は根源は誰なのか?
主水の妻は、綱四郎の娘・由布。
父親が切腹の前に、主水を恨んではならないと説き、その言葉を信じ、主水の元に嫁ぎ
慕っている。
けれど、息子の喬之介は敵討ちの意向を示す。
後世河原騒動の真相は????
真相を追う主水。
そしてわかる真実にビックリ!
え?それじゃ罪の根源を斬るのは無理じゃない?
なんて思って、どうする主水?
ハラハラドキドキ。
今までの葉室作品のなかで、一番先が読めず緊迫した状況に頁をめくる手が
止まらなくなりました。
八方塞の状況なだけに、最後は必ず主水が勝つと信じながらもハラハラ感はマックス!
相手が誰であろうと許せないものは恐れず向かい自分の正義を貫く。
実際、こんな風に行動できる者は居ないだろうなぁ~と思いつつ、その姿には
惚れます。
格好いいぃ~!!
権力に抗えず、自身の志を曲げてしまった者の哀しさも・・・。
途中で主水の側について行動を共にしていた早瀬与十郎の告白は、辛かったなぁ~。
しかし、最後、主水の重い気持ちを和らげたであろう妻の由布の言葉が素敵だった。
「自らの命を託す相手と出会えた者は、それだけで幸せなのではないでしょうか」
葉室さんの作品は、やはり実在のモデルがいるものよりも
こういうお話の方がいいな。
★★★★★
発行年月:2013年6月
瀬戸内海の小さな島、冴島。
島の子はいつか本土に渡る。
17歳。ともにすごせる、最後の季節。
旅立ちの日は、もうすぐ。別れる時は笑顔でいよう。
母と祖母の女三代で暮らす、伸びやかな少女、朱里(あかり)。
美人で気が強く、どこか醒めた網元の一人娘、衣花(きぬか)。
父のロハスに巻き込まれ、東京から連れてこられた源樹(げんき)。
熱心な演劇部員なのに、思うように練習に出られない新(あらた)。
島に高校がないため、4人はフェリーで本土に通う。
「幻の脚本」の謎、未婚の母の涙、Iターン青年の後悔、島を背負う大人たちの覚悟、そして、自らの淡い恋心。
故郷を巣立つ前に知った大切なこと――すべてが詰まった傑作書き下ろし長編。
(講談社HPより)
瀬戸内海に浮かぶ冴島に暮らす4人の高校生たちと島の人たちのふれあいが素敵。
小さな島だから、人間関係が濃い。
島の住人には、以前から住む人と、別の土地から入ってきたIタ-ンの人がいる。
シングルマザ-の蕗子や都会から逃げてきたという本木など。
誰でも多少の問題を抱えているけれど、それがこの島の人々との関わりのなかで
少しずつ解決されていきそうなのが読んでいて楽しかった。
島自体も活気がありそうで、元気な人が多いかんじ。
大矢村長もちょっと計算高いかんじかな?と最初は思ったけれど、人情には厚そうで
こういう人がリ-ダ-シップを取るのは当然なのかな?
島に幻の脚本が眠っている物語の冒頭で探しに来た人物がいて、それは高校生たちの
作戦で誤魔化し追い返したんだけど、それが後に本物らしいものが見つかって・・・という
終盤の話もワクワクした。
高校を卒業し、それぞれの道を進んだ高校生4人組。
島を離れる者あり、残る者あり。
離れても、こんなに素敵な故郷があったら、いつまでも忘れずに島とそこに住んでいる
人たちを大事に思い続けるでしょう。
表紙の絵も素敵!
装画は五十嵐大介さん。
女性が描いているかと思っていましたが、男性なんですね~?
★★★★
発行年月:2013年6月
きっと、また会える。あの頃、団地は、未来と過去を繋ぐ道だったから。
三億円事件の時効が迫り、「8時だョ!全員集合」に笑い転げていたあの頃。ひとつの町のような巨大な団地は、未来への希望と帰らない過去の繋ぎ目だった。失われた誰かを強く思う時、そこでは見えないものがよみがえる。ノスタルジックで少し怖い、悲しくて不思議な七つの物語。ベストセラー『かたみ歌』に続く感涙ホラー。
(新潮社HPより)
東京の北部埼玉県境に出来た大型団地、虹ヶ本団地が舞台。
そこに住む人たちの少し不思議で切ないお話7つ。
でもちょっと温かい気持ちにもなれるのが朱川さんの特徴。
時代背景が自分の子ども時代と被るので、懐かしいものが沢山登場するのも楽しみ。
<遠くの友達>
小学3年生で虹ヶ本団地に引っ越してきた裕樹。
夏休みの引越しなので、友達もいない状態で寂しい思いをしていたが
不思議な動物を、目撃し、それから不思議と友達が出来る。
<秋に来た男>
突然、見ず知らずの男から自分の妻を返してほしいと言われ戸惑う。
男の妻は5年前に失踪し、やっと見つけたというが・・・。
<バタ-クリ-ムと三億円>
三億円強奪事件がもうすぐ時効を迎えるというニュ-スが頻繁に流れる。
事件の起きた日は、完全無欠の美少女だった従姉妹のマリアが亡くなった日。
自分とは正反対のマリアに妬ましさを感じていた自分だったけれど・・・
<レイラの研究>
中学生の良輔は探偵まがいの推理を日常的にしていた。
同級生の澄川玲子の密かに思いを寄せているのだが、学校では無愛想。
そしてある日、長い髪をバッサリ切ってきた。
なぜだろう?
違う場所で偶然、会った玲子に勇気を出して声を掛けると意外と明るく会話が弾みその二面性も謎。
<ゆうらり飛行機>
4歳の息子を亡くした杉下。
息子はインフルエンザで亡くなったが、そのことをつい攻めたことが元で妻は家を出て行き一人暮らし。
いつも模型飛行機を飛ばしている森下氏と言葉を交わすようになり・・・
<今は寂しい道>
激しい雷雨から逃れようと雨宿りをしていたら・・・雷と同時に見つけた不思議な動物。
怪我をしている様子なので家に連れ帰る。
すると夜、見知らぬ少女が現れ「友達のところに連れて行って・・・」と頼まれる。
<そら色のマリア>
マリアの恋人だった尚希は、マリアは何者かに殺されたと信じていた。
そして、犯人らしき男を突き止め、その男の住む団地に自分も住み密かに男を尾行していた。
ある日、川で溺れていた少年たちを見つける。
すると男が川に入り一人を抱きかかえ尚希が、川岸に引き上げるという連携で
子どもたちを救出することが出来た。
尾行していた男と面識の出来たところでマリア殺害の事実を問い詰める。
少しずつ、別々の話の登場人物たちがリンクしていくのが
ひとつの団地のなかの物語の楽しさ。
ちょっと哀しく切ない話ばかりですが、そんな中にも人の優しさも感じられ
子どもだった者が後に成長した姿で再登場したり、ちょっとした仕掛けが嬉しい。
登場した懐かしい物は8時だよ全員集合とか、ボクシ-のボ-ルペンでミニカ-の消しゴムを弾いて遊ぶとか、夏休みになるとやる「あなたの知らない世界」。
怖がりなので、弟が見たがると違う部屋に避難したっけ^^;
1960年代生まれのわたしには共感できる懐かしさがたまりません。
ちなみに朱川さんは1963年生まれなので、ほぼ同年ですね。
★★★★
発行年月:2013年6月
じぶんではない、だれかのために祈るということ――。
人型のはりぼてに神様にとられたくない物をめいめいが工作して入れるという奇祭の風習がある町に生まれ育ったシゲル。祭嫌いの彼が、誰かのために祈る――。不器用な私たちのまっすぐな祈りの物語。
(角川書店HPより)
2つのお話が収録。
一つ目の<サイガサマのウィッカ-マン>
町の特殊な信仰。
サイガサマ・・・願いを叶える代わりに体の一部を奪っていくと言われている神様?
冬至のお祭りとして、人々は願いを叶えて貰った折に奪われて欲しくないからだの部位を
作り物でお供えする。
地元の中学生が大きな人形を作り、人々が作ったからだの一部を入れ
それを燃やす行事。
その祭りでお供えするからだの一部を作る申告物教室なるものを手伝うはめになった
男子高校生・シゲル。
バイトで公民館の清掃をしているのだけど、公民館が会場の申告物教室を
手伝うことになる。
内心では、気が進まない手伝いなのに、与えられた仕事はちゃんとこなす。
ちょっと気になる中学時代の元同級生の女子・セキヅカのことを優しく見守る
姿は凄く好感が持てた。
ひきこもりになった中学生の弟も、少し前に進むかな?
2つ目は<バイアブランカの地層と少女>
京都の大学生の十和田作朗は大学のガイドサ-クルに所属している。
実家から大学に通うことも可能だが、実家が活断層の真上にあることを気にして
以前から住みたいと思っていた嵐山に手ごろな物件を見つけたこともあり
塾の講師と実家からの月2万の仕送りで一人暮らしをしている。
ひょんなことからアルゼンチンに住むファナという少女と文通をすることになり
アルゼンチンはスペイン語だと知り、友人のエンド-の知り合いである
スペイン文化研究会のナカオさんを紹介して貰う。
作朗も1作目のシゲルと似てる。
真面目で人の気持ちを理解しようとしている。
アルゼンチン人の少女からのメ-ルを理解しようして、彼女のことを日々考えている。
2つのお話に共通するのは、自分の家族でも恋人でもない人だけど
その人が幸せであるように祈っているということ。
文章もユニ-クで飽きない。
読んでいると不思議な心地良さに浸れるかんじ。
過去の作品も、もっと読んでみたいな~と思わされた。
★★★★★
発行年月:2013年6月
色鮮やかに、切れ味鋭い小説世界
1人の男をめぐる妻と愛人の執念の争いから、読書クラブの高校生の日常ミステリー、ひと夏の少年の冒険まで、魅力的な6編の短編集。
(文藝春秋HPより)
6編の短編集。
<このたびはとんだことで>
妻と愛人が事故死した夫の骨の前で対峙する。
淡々としたなかにも相手に対抗する気持ちが見え隠れ
<青年のための推理クラブ>
読書クラブに集う青年たちの日常。
ちょっとした推理話の種明かしが面白い。
<モコ&猫>
大学入学後に知り合った男女。
付き合うでもなく、そばで見ているだけで満足という関係。
大学卒業後も何かと連絡を取り合っていたけれど、突如別れが来る。
こういう付き合いしてた学生時代の友達って結構多いかも。
<五月雨>
ホテルの正面玄関から入ってきた若い女性。
謎めいた雰囲気の女性の正体は・・・。
不思議な雰囲気の話でした。
結構、こういうの好き。
<冬の牡丹>
真冬のアパ-ト前に泥酔状態で倒れていた牡丹を救助した男。
2人は同じアパ-トの隣同士だった。
男はアパ-トの管理人で50過ぎ。
年代が違う男女の恋愛とはちょっ違った関係がいい。
<赤い犬花>
小学生男子の友情物語?
最初登場の小学生の性別が謎だったけれど、知り合ったばかりの二人が
ちょっとした冒険に出かけ、親友になっていくかんじがほんわか。
それぞれの置かれた環境はちょっと複雑だけれど、2人がこのまま
親交を深めながら成長してくれたらいいな~なんて思った。
6つの短編のなかでは、一番好き。
いろいろな年代の主人公たち。
どの話もたわいもない会話だったり、大きな出来事が起きるわけじゃないけれど
読んでその情景を思い浮かべながら楽しめた。
表紙のこの絵が良い!
会田誠の「あぜ道」
豊田市美術館蔵!?・・・・・見たことあったかな?
実物を鑑賞したい!!
★★★
記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;