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読んだ本の感想あれこれ。
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発行年月:2024年10月


耳の中に棲む私の最初の友だちは
涙を音符にして、とても親密な演奏をしてくれるのです。
補聴器のセールスマンだった父の骨壺から出てきた四つの耳の骨(カルテット)。
あたたかく、ときに禍々しく、
静かに光を放つようにつづられた珠玉の最新作品集。
オタワ映画祭VR部門最優秀賞・アヌシー映画祭公式出品
世界を席巻したVRアニメから生まれた「もう一つの物語」
「骨壺のカルテット」
補聴器のセールスマンだった父は、いつも古びたクッキー缶を持ち歩いていた。亡くなった父と親しかった耳鼻科の院長先生は、骨壺から4つの骨のかけらを取り出してこう言った。「お父さまの耳の中にあったものたちです。正確には、耳の中に棲んでいたものたち、と言えばよろしいでしょうか……」。
「耳たぶに触れる」
収穫祭の“早泣き競争”に出場した男は、思わず写真に撮りたくなる特別な耳をもっていた。補聴器が納まったトランクに、男は掘り出したダンゴムシの死骸を収める。
「今日は小鳥の日」
小鳥ブローチのサイズは、実物の三分の一でなければなりません。嘴と爪は本物を用います。
残念ながら、もう一つも残っておりませんが。
「踊りましょうよ」
補聴器のメンテナンスと顧客とのお喋りを終えると、セールスマンさんはこっそり人工池に向かう。そこには“世界で最も釣り合いのとれた耳”をもつ彼女がいた。
「選鉱場とラッパ」
少年は、輪投げの景品のラッパが欲しかった。「どうか僕のラッパを誰かが持って帰ったりしませんように……」。お祭りの最終日、問題が発生する。


                    (講談社HPより)



補聴器のセールスをしていた男の死から始まり、生前の男の様子が語られていく。
最後は、少年の頃のはなし。


最初の<骨壺のカルテット>では、骨になり骨壺に納まっている男の骨をとりだし
中から耳のなかに棲んでいたものたちを4つだけ取り出し、息子に渡す
耳鼻咽喉科の院長。
亡くなった男と仕事を通じて知り合い、親交があった。
息子も子どもの頃から、その耳鼻咽喉科には通ったことがある。



色々な人との関わりが、なかなかユニークなんだけど
結婚した女性の話などは出て来ない。
<踊りましょうよ>の彼女ではないよなぁ~?
大学生でアルバイトとして介護助手の仕事をしていて知り合ったそうだけど・・・・
男によると、とても素晴らしい耳を持っている女性らしい。


<今日は小鳥の日>は、ちょっとグロテスクだった。
小鳥ブローチの会に招かれた男が、聞くその会の亡くなった会長のことを聞く。
小鳥のブローチを作る過程がなんとも・・・( ゚Д゚)
そして会長は自死だというが、その方法が、また・・・・( ゚Д゚)
映像になったらホラーだ。



最後の男が少年の頃の話も、物哀しい雰囲気が漂っていた。
母親と二人、鉱山会社の社宅に住み、母親は会社の社員食堂で働いていた。
近所で祭りがあり、輪投げの景品のらっぱが欲しく、毎日、通って
誰かの手に渡りませんようにとみている。
祭りの最終日、輪投げを仕切っているおばあさんが突然、倒れ、人々は
救急車を呼ばなきゃとか移動させた方がいいか?など混乱している。
少年はそんななか、散らばった景品のなかから、欲しかったラッパを
掴み家に持ち帰る。
でも、一度も吹かず、五線紙に星座を描き、ラッパのなかに入れ
母親と引っ越すとき、押し入れの天袋の奥に押し込む。



男の家族を持つまでとその後のことを少し知りたかったけれど、
そうするとこの何か不思議な話が日常の平凡な話に隠れてしまうかな?


薄い本なので、あっという間に読めてしまい、もう少し浸りたかったな・・・。



                     ★★★★
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発行年月:2022年9月

「だって人は誰でも、失敗をする生きものですものね。だから役者さんには身代わりが必要なの。私みたいな」
交通事故の保険金で帝国劇場の『レ・ミゼラブル』全公演に通い始めた私が出会った、劇場に暮らす「失敗係」の彼女。
金属加工工場の片隅、工具箱の上でペンチやスパナたちが演じるバレエ『ラ・シルフィード』。
お金持ちの老人が自分のためだけに屋敷の奥に建てた小さな劇場で、装飾用の役者として生活することになった私。
演じること、観ること、観られること。ステージの此方と彼方で生まれる特別な関係性を描き出す、極上の短編集。

                  (集英社HPより)



8つの舞台に纏わるお話。
著者らしい、美しく優しい文章が綴られるけれど、やはりどこか寂しく不穏な
雰囲気が漂っている。
現実の世界と、また違う世界を行き来するようなお話たち。

<指紋のついた羽>
金属加工工場に勤める父親の仕事終わりを待つ少女とその工場の向いの縫製工場で
働く縫子さんの交流。
静かだけど、少し温かい二人の時間もあって、一緒に観たバレエ「ラ・シルフィード」
もどんな物語か気になった。

<ユニコーンを握らせる>
第一志望の大学受験のため父の義理の姉にあたるローラ伯母さんの元に4泊させて
貰った間の話。
伯母さんの家の食器には「ガラスの動物園」に出てくるローラのセリフが
底に書かれていた。

伯母さんとの交流がこの大学受験の失敗で、これきりになってしまったのが惜しい。
伯母さんと暮らした短い時間は、濃厚だっただろうなぁ~。
この短編集のなかで一番すき。

<鍾乳洞の恋>
左下奥歯のブリッジを交換してから、なんとなく違和感があり始終、舌先で
触る癖がついてしまったことから、首の痛みに悩まされることになった伝票室室長の
話。

歯の隙間から出てくる謎の白い生き物・・・・不気味である(^^ゞ


<ダブルフォルトの予言>
交通事故の保険金で帝国劇場の「レ・ミゼラブル」の全79公演の
チケットを購入した女性の話。
劇場に通う日々のなかで知り合った劇場内に暮らしているという女性。
彼女の仕事は、役者の失敗を代わりに引き受ける失敗係だという。

夢か幻か~?というお話だけど楽しかった。

<花柄さん>
38歳で急死した女性の亡くなるまでの生活を書いたお話。
いつも花柄のスカートを穿いていたので花柄さんと呼ばれていた女性。
劇場に通い、楽屋口で待ち、役者にパンフレットにサインを貰うことが
趣味。
サインして貰ったパンフレットはベッドの下に積み重なり。。。

管理人さんがベッドの下に見つけたものが、パンフレットの山としり
ホッとした。

<装飾用の役者>
19歳からずっといろんな人のコンパニオンとして働いてきた女性。
初めての男性の依頼人・N老人は自宅に劇場を設え、そこに装飾用の役者を
雇い入れていた。その一人としてN老人の指定する部屋で装飾用の役者と
しての時間を過ごす。

こんな仕事は嫌だ。
最初は楽かもしれないけれど。。。

<いけにえを運ぶ犬>
会社の忘年会のビンゴ大会で演奏会のチケットを貰った男性。
演奏会のなかでのシベリウスのヴァイオリン協奏曲「春の祭典」を
聴きながら、子どもの頃、馬車の本屋といって犬に木箱に入った本を運ばせて
売りにくる本屋のことを思い出す。

男が少年のとき、気になっているけど、高価で買えなかった「渡り鳥の秘密」
を工夫して立ち読みしている姿がかわいい

<無限ヤモリ>
保養所の管理人夫婦が売っているという小さな虫かごに入ったヤモリ。
二匹ずつが3つ。
散歩に出てみつけた理容室に飾られた見事なジオラマに魅せられる。
生まれてから一度も自分の足で土を踏めなかった病弱の亡き息子のために
作ったという。

この町全体がなんとなく異世界っぽい。
無限ヤモリも気持ち悪いし・・・・(^^ゞ



小川さんの短編集は、どの話もひとつひとつが濃厚。
独特の雰囲気で余韻が残るかんじ。
でも、それがいい。
楽しませてもらいました♪

小川さんの本は表紙の絵がいつも素敵。



                      ★★★★★


発行年月:2004年4月


「夏のはじめのある日、ブラフマンが僕の元にやってきた。」
あたたかくて、せつなくて、いとおしい。極上の文学世界をご堪能ください。
朝日はまだ弱々しく、オリーブ林の向こうの空には沈みきらない月が残っているような時刻で、僕以外に目を覚ました者は誰もいなかった。ブラフマンは裏庭のゴミバケツの脇に潜み、脚を縮め、勝手口の扉に鼻先をこすりつけていた。――(本文より)

                  (講談社HPより)




文章が美しい。

読んでいると自然に情景が浮かぶかんじ。


これは日本ではないかな?
西洋の香り。


ある夏の日にけがをした仔犬を見つけて、連れ帰る僕。
僕は「創作者の家」と呼ばれる施設の住み込みの管理人。

色々な創作者がここで創作活動をしていて、一番親しいのは碑文彫刻家。
仔犬の名前を彫刻家の作品のなかから選ぶことにして気になった文字を
尋ねるとサンスクリット語で「謎」という意味の「ブラフマン」と読むんだと
教えられ、それを名前に決める。


普段は、部屋のなかでほかのものに見つからないようにしていたが
動物アレルギーだというレース編み作家に見つかってしまう。
部屋に頑丈な鍵を彫刻家に取り付けて貰い、ブラフマンが勝手に部屋から
出ないようにする。

必需品を配達してくれる雑貨屋の娘と親しくなり、車の運転の練習に
付き合う。
創作者の家の庭は広いので、そこが練習場所。


ああ、なんか嫌な予感・・・・・と思ったら・・・・(;O;)

僕とブラフマンの暮らしぶりは、微笑ましいもので犬も可愛いなと
思って読んでいたのにな・・・。


表題通り、埋葬するのが物語の最後。
でも、ブラフマンを避けていたレース編み作家も埋葬に参列したのは
良かった。
嫌な人ではなかったとわかって良かった。



アッとという間に読み終えてしまったけれど、とてもよかった!



                       ★★★★


発行年月:2019年11月


ハリウッド俳優Bの泊まった部屋からは決まって1冊本が抜き去られていた――。
客室係の「私」だけが秘密を知る表題作など、
著者ならではの静謐で豊かな物語世界が広がる、珠玉の短篇6本。

               (河出書房新社HPより)


表題作<約束された移動>は1番目。
今は、映画界から姿を消した、ハリウッド俳優だったBについて。
彼の生い立ちが語られ・・・
彼がまだ若手俳優の時からホテル滞在中に客室係で働いていた「私」。
彼が1冊づつ本を持って行くのに気づくが、ほかに知られないように
取り繕う。そして、次は何を持って行くか、予想したりして楽しむ。

彼が持ち去る本に共通しているのは、誰かがどこかに移動してゆくお話。


<ダイアナとバーバラ>
ダイアナ妃が着ていた服を忠実に再現しているバーバラ。
以前は、市民病院の1Fロビーで案内係をしていた。
口癖は「わかります、わかりますよ」。

孫娘がダイアナ仕様の服の着付けを手伝い、一緒にショッピングモールまで
外出。そこのフードコートで休憩がお決まり。
バーバラの恰好は奇妙で、通り過ぎる人は、見て見ぬふり。

これ、最後のオチがいい。
少年と孫娘、友達になれそう・・・^m^



<元迷子係の黒目>
ママの大叔父さんのお嫁さんの弟が養子に行った先の末の妹(通称・末の妹)
と「私」。
末の妹は、退職まで勤めていたデパートの迷子係として能力を発揮していた。

遠い親戚として「私」の家の隣に住む彼女。
グッピーの産卵の時に大仕事をやってのけた末の妹。
でも、その後、熱帯魚を全て死なせてしまった「私」。

デパートで迷子の体験をする「私」。迎えに来る役は末の妹。


二人の関係がなんだか、ほのぼのしていて良かった。



<寄生>
彼女にプロポーズをすると決めて目的のレストランに向かう途中に
見知らぬ老女につかまってしまう。
どうしても離れてくれないので交番へ。


寄生というタイトルから、もっと不穏なものを想像してしまったけど
おばあさんを迎えにきてくれる人が見つかってホッとした。
そしてポロポーズはたぶん、成功ですね。
素敵なカップルのなれそめも面白く、微笑ましい話。



<黒子羊はどこへ>
貿易船が座礁し、多くの漂流物が流れ着き、そのなかに白い2匹の羊。
以前は、家畜を飼っていたが夫が亡くなりすべて処分した女性がその2匹を
連れ帰り、育てる。
春、毛を刈ろうとしたら、赤ちゃんが生まれていた。
なぜか黒い羊。
村人たちは、不吉の予兆と噂するが、子どもたちには人気で、羊を見にやってくる。
やがて、そこは託児所になり、村人たちは「子羊の園」と呼ぶ。

女性(園長)の話す、黒羊の死に方の物語は、少し残酷だけど子どもたちには
一番人気。


これは、最後、ちょっと哀しかったなぁ~。


最後は<巨人の接待>
巨人と言っても言葉通りの巨人じゃなかった。
なぜ、巨人と呼ばれているのか??
世界的に有名な作家だけど、生まれ育った地域語しか話さず、その通訳係に
呼ばれた「私」。

ほかの誰もが二人の会話を知れないって、なんだかおもしろい。
巨人と「私」の意気投合ぶりが愉快だった。



どの話も、それぞれ面白い!
言葉のセンスはやはりさすが。

懐かしいと思ったり、哀しく感じたり、切なくなったり、可笑しかったり
ほんわかしたり、いろいろな感情を読み手に届けてくれる。

本の装丁も、毎回、素敵です!!
いうことなしの短編集!!


                    ★★★★★







発行年月:2019年10月

『ことり』以来7年ぶりの、書き下ろし長編小説。
死んだ子どもたちの魂は、小箱の中で成長している。死者が運んでくれる幸せ。
世の淵で、冥福を祈る「おくりびと」を静謐に愛おしく描く傑作。

私の住む家は元幼稚園で、何もかもが小ぶりにできている。講堂、給食室、保健室、人々の気持ちを慰める“安寧のための筆記室”もある。
私は郷土史資料館の学芸員であったバリトンさんの恋人から来る小さな文字の手紙を解読している。従姉は息子を亡くしてから自分の人生を縮小した。
講堂にはガラスの小箱があり、亡くなった子どもたちの魂が成長している。大人は自分の小さな子どもに会いに来て、冥福を祈るのだ。“一人一人の音楽会”では密やかな音楽が奏でられる。
今日はいよいよあの子の結婚式で、元美容師さん、バリトンさん、クリーニング店の奥さん、虫歯屋さんが招待されている。

                             (朝日新聞出版HPより)




切ないけれど、温かく、不穏さもありながら美しい、小川さんの物語は素敵!

主人公の私は・・・独りで元幼稚園に住んでいる。
そして講堂を訪れる人たちのため、そこを守っている。

講堂に並んだガラスの箱たち。
それは亡くなった子どもたちが成長する場所。

姿は見えなくても、そこで成長していると考えたら哀しさも幾らか慰められそう。

一人一人の音楽会も何やら不思議な雰囲気ですが、みなが自分の亡くなった子どもたちと
対話しているかのような姿は、切ないけれど温かい気持ちにもなれる。

形見の品で作った小さな楽器を耳たぶに吊るし、風に揺れながら、それが奏でる音を楽しむ。
居様な風景にも見えるけれど美しい文章で語られるので、幻想的な雰囲気。


最後は、従姉の子どもの結婚式。
みんながお祝いの気持ちで集う、素敵な式。


この独特な雰囲気にずっと浸っていたくなった。



                                   ★★★★★
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台所、居間、パソコン室、一日中、本を片手にあちこち移動しながら、読書しています♪

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★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
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