林芙美子、吉屋信子、永井荷風が描いた女中小説を一直線に繋ぎ、21世紀のAKIHABARAを閃光でつらぬく、昭和モダン異聞。
失業男とカフェ-メイドの悪だくみ・・・「ヒモの手紙」
令嬢と女中は戒厳令の夜に・・・「すみの話」
インテリ文士と踊り子は洋館で・・・「文士のはなし」
(本の帯文より)
元の作品は全く知りませんが、面白かった。
以前読んだ、「FUTON]も田山花袋の「蒲団」を現代版風に打ち直しして書かれていましたが、これも現代版に。
90歳を越えている、老女・すみ子が語る女中回顧録というかんじで、物語が進む。
若い頃はカフェ-に勤めていたから、秋葉原のメイドカフェに来ると、懐かしい昔を思い出すのだとか。
昔はメイドと言えば・・・・亀井戸の私娼窟のことだったと、すみ子の解説。
すみ子に言わせると、アキバのカフェに居るのはメイドじゃなくて女給というらしい。
ヒモ男を嫌だと思いながらも、女に金を要求する手紙を代筆してやったり、奥さんが西洋人でわがまま娘が一人いる館に女中として通ったり、変わり者だと言われる物書き先生が一人暮らしの洋館に住み込みで働いたり。
すみ子さんは、いろいろな人と関わるけれど、深く立ち入った関わり方をしない。
薄情とは違うかんじで、変に慣れたりしない。
一人暮らしの物書きのところに住み込みで・・・と自分から言ったけれど、単にその方が便利だからかな?
作家の方もまた似た様な人みたいで、二人の男女としての関係はどうにかなるのか?なんて少々期待したりもしたけど・・・何もなく・・・・^^;
でも、なんだか、こういう関係が羨ましい。
変わり者同士だからか、お互いが居心地良さそうで。
女中だから・・・・と変に卑屈にならず、自分の思う事は述べるし、思ったように行動する、すみ子はなんだか格好いいな~なんて思って、読んでいて楽しかった。
最後は、ちょっと見方によっては、気の毒なのかもしれないけれど、彼女は別に不幸でもなかったんじゃないかな?
もっとすみ子さんの話が聞きたい!!
3つの話だけじゃ、物足りない!なんて思ってしまいました。
元作品も気になるなぁ~。
探して読んでみようかな?
発行年月:2008年12月
「ハブテトル」とは備後弁で
「すねている、むくれている」という意味。
「ハブテトラン」は否定形。
東京の小学校に通う5年生の大輔は、あることがキッカケで一学期途中から学校に行けなくなっていた。
両親は相談し、母親の故郷である広島県福山市松永の祖父母の元で二学期の間は、そちらの小学校に通わせてみようと決める。
中島さんの本はこれで何冊目かな?
これは、一応、一般書なのかな?
でも、大輔と同年齢の子どもが読んでも楽しめる内容だと思います。
大輔目線のおはなしなので。
東京(行けなくなった学校)から離れ、両親とも離れた大輔。
祖父母やその周辺の大人たち、松永の小学校の同級生たちとの関わりの中では、とても生き生きしている大輔の暮らしぶり。
その中には、暗い影はあまり感じない。
周りの大人も子ども達ともすごく仲良く、楽しく関わっていて、読んでいても楽しかった。
でも、ちょっとした違和感。
松永の暮らしは、大輔には快適とも感じられるものだったけど、この後、東京に再び戻っても大丈夫なのかな?
大輔の留守中、両親は、再び東京の学校生活に戻るわが子の為には、何をしていたのかな?
が、わたしの中にありました。
東京の担任、クラスの子どもたちは、大輔が他の地で学校生活を送ることになった事をどう受け止めているのかな?
児童書として読めば、「良い思い出」を胸に東京でもがんばれ!と言えばいいのかもしれないけど、現実問題では、そう単純には行かないかも・・・・と考えてしまうのは考えすぎかな?^^;
大輔は、とっても素直で人の気持ちがわかる子。
こんな良い子が、再び、東京に戻ったとき、辛い目にまた合わないように、両親や周りの大人たちがもっと頑張って欲しい!!東京の大人たち、松永の大人たちに負けるな!
なんて思いました。
大輔は、もう十分、頑張ってるんだから!
★★★
「蒲団?あの、変態の先生が女弟子のフトンに顔をうずめて泣く話?」
田山花袋「蒲団」の書き直しを図る中年アメリカ人と愛人の日系女子学生。
95歳の曾祖父の戦後史と現在。
知的ユ-モア溢れる書下ろし長編!
(本の帯文より)
図書館の棚をブラブラしながら眺めていて、これが目につきました。
以前、「平成大家族」がとても面白く、これは、確か中島さんのデビュ-作で話題になってた書と記憶にあったので、借りてきました。
物語は、ちょっと変わった進み方。
アメリカの大学で教鞭をとり田山花袋の文学を研究中のデイブが自身が書き進める花袋の「蒲団」の打ち直しというかたちで書く小説も現代の物語FUTONと共に進行してゆく。
デイブは46歳で妻とは協議離婚が成立していて、息子を週3日預かる約束ごとを守っている。
そして、自身が教える日系アメリカ人のエミとは深い関係。
エミには、日本にユウキという別の恋人がいる。
そしてエミのおじいちゃん・タツゾウ72歳、ひいおじいちゃん・ウメキチ95歳も日本人でウメキチがやっていたそば屋「三州屋」をタツゾウがアメリカ資本のサンドイッチチェ-ン店「ラヴウェイ・鶉町店」として営業している。
エミが日本から来た恋人と一緒に日本に遊びに行ったのを追いかけるように来日するデイブは、自身が打ち直しとして書き進めている小説の中の女弟子に恋する小説家の行動とだぶる部分があって可笑しい。
花袋の「蒲団」は読んだことがないですが、これを読んだら本家のそれが読みたくなりました。
デイブの書く「蒲団の打ち直し」では、花袋の「蒲団」ではあまり登場しないらしい小説家の妻・美穂の視点で書かれていて、弟子に恋心を抱き、それが元で時々、不機嫌になったり乱暴になったりする夫を冷静に見つめている様子は、なかなか面白かった。
弟子には、恋人がいて、自身の恋は叶うものではないと知り、今度はそれを応援するという形で常に側で主導権を握ろうとする夫の滑稽さを半分は、同情、半分は嫌悪する美穂の気持ちの表し方が上手い!
アメリカ人のデイブじゃ到底こうは書けないでしょうけど・・・・^^;
日本で暮らすエミのひいおじいちゃんは95歳の高齢に似合わない元気さで普通のヘルパ-には介護の必要なしということで援助してもらえない状況。
そんな時、知り合うイズミ。
若者のワルが集まる場所で若者たちに、今まさに殺されちゃう?という状況を覗いていたイズミ。
若者の誰かが「100年も生きてるんだからロウスイさせてやろうぜ」と言ったことから難を逃れたウメキチ。
それが縁で、ウメキチの元に介護に通うようになる。
イズミはなかなか良い子だが同じくイズミに頼まれ介護に通うケンちゃんも良い子。
ちょっと訳ありの二人の関係も微笑ましいかんじ。
日本にエミを追っかけてきたデイブがイズミと知り合う場面もなかなかよかった。
エミからウメキチの辛い体験を聞き、自身が研究する花袋の生きた時代と今を繋ぐ人物がここに存在する不思議を実感する。
東京には、花袋の時代から現在まで、壮絶な歴史があったことを再確認するデイブ。
それは、わたしたちにも日本の歴史を再確認するものでもありました。
デイブの書き進めていた「蒲団の打ち直し」の世界と、デイブ自身が存在する今とが重なったような瞬間をも感じました。
ラストは皆が、またこれから先に向かって明るく歩み始めるかんじで爽快!
おもしろかった!!
中島さん、素晴らしい!!
わたしにとって今までの作品、全部制覇したいと思わせる作家さんになりました。
★★★★★
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記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;