発行年月:2015年5月
帰り道は忘れても、難読漢字はすらすらわかる。
妻の名前を言えなくても、顔を見れば、安心しきった顔をする――。
東家の大黒柱、東昇平はかつて区立中学の校長や公立図書館の館長をつとめたが、十年ほど前から認知症を患っている。長年連れ添った妻・曜子とふたり暮らし、娘が三人。孫もいる。
“少しずつ記憶をなくして、ゆっくりゆっくり遠ざかって行く”といわれる認知症。ある言葉が予想もつかない別の言葉と入れ替わってしまう、迷子になって遊園地へまよいこむ、入れ歯の頻繁な紛失と出現、記憶の混濁--日々起きる不測の事態に右往左往するひとつの家族の姿を通じて、終末のひとつの幸福が描き出される。著者独特のやわらかなユーモアが光る傑作連作集。
(文藝春秋HPより)
年を取って、段々と記憶をなくしていく病。
東 昇平が認知症を患ってから10年の家族の様子を描いている物語。
娘たち3人は、それぞれ別の所に住んでいる。
長女の茉莉は、夫の仕事の関係でアメリカ在住。息子が2人。
次女の菜奈は、夫と息子と割と近くで暮らしている。
三女の芙美は、独身でフードコーディネーターとして多忙な日々。
曜子は、介護ヘルパーや、訪問入浴、ディサービスなどを使って何とか夫の介護を
ひとりで頑張ってきたけれど、自身も網膜剥離で手術をしなければならなくなる。
三姉妹は、それぞれの暮らしを何とか工面しながら、父親の介護に協力し合う。
娘たちが協力的でいいなぁ~。
認知症の昇平が、メリーゴーランドに子供だけでは乗れないことを困っている姉妹の
頼みを聞いて、一緒に乗ってあげる場面は、ほっこりした(^^)
子どもが困っていたら、助けてあげるのは、教師生活が長かったからか、
元々、優しい性格だからでしょうか?
介護って大変だし、辛い部分も多いけれど、この物語のなかには、昇平を大事に思う
家族の優しさが溢れていて、読んでいても悲壮感がなく良かった。
自分の親も配偶者もそして、自分自身も、この物語のような状況を
間違いなくいつか迎える。
なかなか難しいけれど、この東家の人たちのような、大らかさを持ち続けられたら
いいな。
昇平は最期まで、幸せだったでしょうね。
★★★★
発行年月:2014年11月
あなた、どこかへ
辿りつけるでしょうか。
「webちくま」の人気連載を単行本化!
太宰治、吉川英治、ケストナー、ドイル、アンデルセン……。
あの話この話が鮮やかに変身するパスティーシュ小説集。
思わずにやりとする、文芸の醍醐味がたっぷり!
(筑摩書房HPより)
有名な文豪の作品を基に書かれた短編集。
「パスティス」とはの説明が最初にありました。
アブサン(リキュール酒の一種。ニガヨモギを主成分とした, アルコール分70パーセント前後の緑色の洋酒)の製造が禁じられた時代、代用品として作られたお酒が「パスティス」。
その意味を辿ると「ごたまぜ」という意味だとか。
この短編集は、模倣、パロディ、珍解釈とごたまぜの世界の作品たち
と著者の解説。
基になった、お話
<満願>・・・太宰治「満願」
<Mとマットと幼なじみのトゥー>・・・吉川英治「宮本武蔵」
<夢一夜>・・・夏目漱石「夢十夜」
<腐心中>・・・森鴎外「普請中」
<カレー失踪事件>・・・コナン・ドイル「シャーロック・ホームズシリーズ」
<ムービースター>・・・映画「キングコング」
<毒蛾>・・・宮澤賢治「毒蛾」
<青海流水泳教室>・・・岡本かの子「渾沌未分」
<王様の世界一美しい服>・・・アンデルセン「裸の王様」
<親指姫>・・・アンデルセン「親指姫」
<伏魔殿>・・・施耐庵「水滸伝」
<新しい桃太郎のはなし>・・・作者不詳「桃太郎」
<国際動物作家会議>・・・ケストナー「動物会議」
<寒山拾得>・・・芥川龍之介「寒山拾得」
<富嶽百景>・・・太宰治「富嶽百景」
<ドゴーを持たっしゃれ>・・・ペコット「ドゴーを持ちながら」
坪内逍遥「ロミオとヂュリエット」
面白く読んだのは、<カレー失踪事件>ミステリーも食べ物が主だと面白い!
あとは、<親指姫>政治家のセクハラ発言と童話が混ざったブラックユーモア的話で
男は勝手だ!と憤りが・・・。
<富嶽百景>は愉快だったフランス人の義兄に一度本物の富士山を見せてあげたくて
奮闘する話。やっと見られたと思ったのに・・・なるほど思い込んだイメージ通りじゃないと
認めないのね^^;
基になっているお話、読んでない作品が多いので、著者の意図する面白さが
わたしには伝わり難いのが残念でした。
読み手の勉強不足が試される作品でした^m^
★★★
発行年月:2014年8月
江戸時代、“女性”という立場で、清心尼はいかにして有象無象の敵を前に生き抜いたのか。「
武器を持たない戦い」を信条とした、世にも珍しい女大名の一代記。
著者初の歴史小説にして新たな代表作
(集英社HPより)
歴史小説だけれど、ファンタジーも交えたお話で読みやすかった。
物語は、後に女領主となる袮々が一本しか角を持たない羚羊に出会う場面。
お互いに見つめ合い何か惹かれるものを感じる。
そして、やがて、袮々に起きる一大事の度に知恵を授け助ける存在となる。
羚羊(ニホンカモシカ?)のほかにも動物がいろいろ登場。
中でも河童が愉快。
袮々とあるとき遭遇した河童が苦しむ袮々に薬を与え助け、親しくなり「嫁に来ぬか?」と
求婚されるが、断る。
河童はその後も袮々のことを想い、妻に迎えた河童は袮々に似た河童で
名前を袮々子として夫婦仲良く暮らしたとか。
袮々の周りでは哀しい出来事が起き、親しい者を次々、世を去っていくが
周りの者に助けられながら、困難に立ち向かい、知恵で家臣や領民を守り抜く。
剃髪し、清心尼として晩年は静かに暮らした様子。
大河ドラマの題材にもなりそうな人物だなぁ~。
無知ゆえ、この物語で初めて存在を知りましたが・・・^^;
八戸から遠野に移り住むことになった袮々たちと共に河童たちも移動。
遠野が河童伝説で有名になっている所以も絡んでいるのが楽しい。
中島さん、初の歴史小説でしたが、他の歴史上の人物でも、また
何か書いて欲しいなぁ~。
★★★★★
発行年月:2013年11月
オレゴンの片田舎で出会った老婦人が、禁断の愛を語る「リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い」。
暮らしている部屋まで知っている彼に、恋人が出来た。ほろ苦い思いを描いた「ラフレシアナ」。
先に逝った妻がレシピ帳に残した言葉が、夫婦の記憶の扉を開く「妻が椎茸だったころ」。
卒業旅行で訪れた温泉宿で出会った奇妙な男「蔵篠猿宿パラサイト」。
一人暮らしで亡くなった叔母の家を訪ねてきた、甥みたいなものだという男が語る意外な話「ハクビシンを飼う」。
「人」への執着、「花」への妄想、「石」への煩悩……
ちょっと怖くて愛おしい五つの『偏愛』短篇集。
(講談社HPより)
5つの短篇。
どれも良かったぁ~。
特に面白く思ったのは
<ラフレシアナ>と表題作の<妻が椎茸だったころ>
<ラフレシアナ>
友人に紹介された立原一郎は、変人。
その立原に恋人が出来たと聞き、驚く主人公。
大して親しくもないのに、家が近所だからか、知り合いがほかに居ないからか
2週間留守にする間、部屋のなかの植物「ラフレシアナ」の水遣りを毎日お願いしたいと言われ
世話をしたことがある。
食虫植物で、なんとも奇妙な容姿のその植物。
主人公の女性、優しいな。断りきれずに、大した手間でもないと頼みを引き受けてあげて・・・。
でも同じような状況なら、興味本位で留守中なら水遣りくらいならやってもいいかな。
立原の恋人・・・え?なんだか怖い。
<妻が椎茸だったころ>
55歳で突然、亡くなった妻。
退職後2日のことだった。
妻が予約していたなかなか予約が取れない料理教室に代わりに行ってと
娘に言われ、仕方なく行くことにするが・・・
持ち物は、甘辛く煮た椎茸。困惑し、妻のレシピ集を探す夫。
そして見つけた「椎茸」の文字。
なるほどね・・・。
代わった表題だと思ったら、こういうことでしたかぁ~。
食材のルーツを頭に浮かべながら調理をしたことはなかったなぁ~。
この奥さん、凄くお料理作るの楽しんでいたんでしょうね~。
そして、そんな奥さんの気持ちを理解できる、ご主人も良いな~。
なんだか温かい気持ちになれました。
ほかの3編も変わった話で、SFぽかったり、ミステリーぽかったり
どれも面白い物語でした!!
★★★★★
近くて遠い異国で、彼女たちは何を見る?
北京、台湾、上海。
刻々と変化する隣国を訪れた3人の女達が未知の風景の中で出会う、
未知の自分。飄々とした異国情緒溢れる中篇集
(文藝春秋HPより)
北京、上海、台湾・・・・行ったことないけれど、読みながらなんだか旅をしているような気分になれた。
<北京の春の白い服>
中国服飾美容出版社に唯一の日本人スタッフとして招聘された夏美。
この国で初めてのファッションマガジンを現地スタッフと作り上げるべく働く。
日本式のやり方をバンバン要求し、スタッフたちを圧倒させる夏美。
ふと、自分のやり方は現地スタッフには不快かも?と思ったりする。
休日、偶然知り合った北京で留学しているというコ-ジと共に出かけ、露天のおじさんに言われる
言葉が「マンマン・ゾウ」=慢慢走=のろのろ歩け=のんびり行け
この言葉、なんかいいな。
<時間の向こうの一週間>
夫の赴任先の上海に一緒に住むための家探しに日本から来た亜矢子。
一緒に家探しをする予定だったのに、夫は武漢に1週間の出張になってしまったと言う。
一人で過ごす上海での1週間。
夫が案内人の女性を頼んであるからと言ったが現われたのは男性。
親切にあちらこちらの物件を案内してくれるけど、本当は彼の元恋人が頼まれたことだったらしい。
夫が居なくても結構、面白い一週間だったんじゃないのかな?
お見合い広場が興味深かったなぁ~。
<天鐙幸福>
亡き母親の思い出の地・台湾。
生前、母親が言っていた「美雨には台湾に3人のおじさんがいるのよ」。
そしてそのうちの一人らしいおじさんから台湾に誘われ会いに行く。
電車のなかで、通訳をしてもらったことから現地の青年・トニ-仲良くなり一緒におじさんを訪ねる旅をする。
最後にやっと連絡をくれたおじさん宅へ。
そこで知る母親の台湾でのこと。
みんなが温かく主人公の美雨を受け入れてくれる様子が微笑ましい。
辛い時代もあったというおじさんたちがトニ-と美雨が仲良くしてくれると嬉しいという言葉が
印象的だった。
どの話もよかったなぁ~。
中国とは政治的にいろいろあるけれど、仲良く歩み寄っていけたら最強になれそうなんだけど・・・。
なんてふと思った。
★★★★
12 | 2025/01 | 02 |
S | M | T | W | T | F | S |
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記事最後の★についての基準は
★★★★★ぜったい再読したい!!
★★★★すごく良かった!
★★★最後まで楽しめた
★★☆最後まで読んだが好みじゃなかった
★★飛ばしつつ一応最後まで目を通した
★途中放棄^^;